2006年09月15日

ワーキングプア養成所

何となくネットを巡っていたら、今年の7月下旬に、NHKが「ワーキングプア」の特集をしていたことを知りました。グーグルにかけるとあちこちのブログにたくさんヒットしたので、かなり反響があったようです。

ワーキングプアとは、働く意欲があって、一生懸命働いているのに貧乏な人たちを指し、自由競争により生まれる「格差社会」の象徴とされている層だそうです。

番組を見た人たちの意見を読むと、みな一様に「こんな世の中おかしい」と嘆いているので、自由競争に警鐘を鳴らす内容だったと思われます。まあ、それは結構なことです。

ところで、ぼくの生業であるテレビ業界というところは、テレビ局の社員だけでなく、その何倍もの外部スタッフにより支えられています。そして業務の性質上職人気質の人がとても多く、形式上制作会社に属していても、実質はフリーという人がかなりを占めています。ぼくもその一人です。

ところがこの業界は、近年の情報革命により明らかに斜陽の道を辿っています。そしてその打撃を直接被っているのが、そうした後ろ盾のないフリーの人間たちです。番組制作一筋で20年以上働いてきた40代のベテランが、20歳そこそこのADと変わらない低賃金での労働を余儀なくされて生活苦にあえぐ姿は、この業界ではありふれた光景です。

30代後半のある友人は、病身の母親と二人暮らしで月々額面で30万円(交通費込み、ボーナス等はもちろんなし)。週に何度も徹夜をして、中間搾取はほとんどなくてこの額です。彼は月々の支出が30万を超えるので、働けば働くほど借金が増えていく始末で、ついにサラ金からも借金を断られ、最近では半ばまじめに自殺をほのめかしています。

そんな厳しいこの業界で、最近その傾向を最も強めているのがNHKです。

かつてのNHKは、ギャラはそれほど高くないけれど、外部スタッフをいたわる優しいクライアントとして知られていました。しかし最近の「外部いじめ」には本当に目に余るものがあります。ぼくもNHKでよく仕事をさせてもらいますが、仕事の内容に関係なく受信料収入の減収分をそのまま下に落としてくるので、ギャラは一律2割から3割ダウン。技術と経験と実績あるベテランディレクターたちを、まるで学生アルバイト感覚で使い捨てにして、まさにワーキングプア養成所と化しています。

しかしまあ、厳しい世の中ですからそれも仕方ありません。もっと苦しんでいる人を探せばいくらでもいますし、外部スタッフに過酷な条件を課すのは民放とて同じです。ただ、NHKの場合はちょっと違うのです。「恐ろしい格差社会がやってくる」と警鐘を鳴らすNHKと、経営において「弱者」を圧殺するNHKは、ぼくの中でとてもいやな形で結びついているのです。それはこういうことです。

民放で働くと、大抵最初はNHK以上に安いギャラで、ひどい扱いを受けます。しかし不思議と、NHKで働くよりもやりがいを感じるのです。なぜかと言えば、希望があるからです。

各種の既得権で守られているとは言え、まだしも市場原理が働く民放では、効率よくいい仕事をしてくれる外部スタッフは、仕事の出来ない社員よりも数倍ありがたい存在です。そして有能な外部スタッフは、高視聴率をもたらしてくれるタレント同様、時には社員以上に大切に扱われます。並の社員ではできない大きな仕事を任されて、大きな富を築くことも、可能性はわずかであるにしても、不可能ではないのです。

しかしNHKという社会に競争はありません。競争がないために、外部の人間に「成り上がる」余地はなく、報酬的にも地位的にも、職員とそれ以外という階級が固定されています。一方で余裕のある頃の職員たちは、外部スタッフに笑顔をふりまき、民放のように無茶な要求をすることもありませんでした。

NHKのこの状態は、いわばカリカリとした競争がなくて弱者に優しい、福祉国家的社会です。もしNHKのこの状態がずっと続くのであれば、外部スタッフの立場からして、夢はあるけれど弱肉強食な民放と、夢はないけれど穏やかなNHKと、どちらを選ぶか難しいところです。NHKで働く外部スタッフには清潔な女性が多く、民放には何日も家に帰っていないようなむさい男が多いというところも、それぞれの職場の性格を表していると思います。

ただしそれは、NHKの経営がうまく行っていた頃の話です。

受信料収入が落ちたNHKはどうしたか?以前と変わらぬ柔和な姿勢を崩さず、真の経営の効率化を進めようとしたでしょうか?違います。民放の厳しさにもまれた外部の力を積極的に導入し、徹底した効率化と発想の転換をはかれば、それは決してできないわけではないと思います。しかしやりませんでした。そして以前通りの階級制を維持して、旧来からの「強者」を可能な限り保護しつつ、ただ単純に「弱者」を切り捨てる手段に出たのです。

余裕のあるときは弱者に対して優しい笑みを惜しみませんが、弱者が自分と同じ立場に立つことは許さず、そして本当に自分の身が脅かされる事態になると、驚くほど冷酷に弱者を切り捨てる。まるで口先だけの正義を唱える、世間知らずにお坊ちゃんそのものです。

民放とNHKという二つの世界を行き来していると、心から実感します。「ワーキングプアの最大の敵は、格差を生み出すとされる自由競争ではなく、格差の固定」だと。そして自由競争を最も恐れているのは、既得権を手にして社会の上層に居座る、旧来からの勝ち組の人たちだと。

だからぼくは、NHKが「格差社会」の問題を告発する姿を見ていると、どうしてもそこに無意識的な自己保身が透けて見えて仕方ないのです。

ナイーブな意見であることを承知で言わせてください。

NHKよ、日本津々浦々に出かけていって奇特な方々を捜す暇があったら、自分たちのまわりにいくらでもいる、自分たちが作り出している弱者の群れをまずよく見つめてみろ。そしてなぜ彼らが苦しまなくてはならないのか、よく自分に問いかけてみろ。答えはそこにある!



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