ロシアのプーチン大統領が26日の福田康夫首相との首脳会談で、北朝鮮による日本人拉致事件について「許せない行為だ」と述べ、かつてない強い口調で北朝鮮を批判し、拉致問題解決に向けての協力を惜しまない考えを示していたことが明らかになった。北朝鮮に隠然たる影響力をもつロシアの首脳の「怒り」が、北朝鮮を動かす圧力になる可能性がある。
プーチン大統領「北朝鮮許せない」 拉致問題に“激怒” 日露首脳会談
MSN産経ニュース 08年4月29日
もっともこの記事によれば、
日露関係筋は「拉致問題でロシアが真剣に北朝鮮の尻をたたくとは思えない。北方領土問題で日本側を懐柔するために、日本を後押しするポーズをみせているのではないか」と指摘している。
ということですが、北を餌にして日本を釣るのだったら、正直今ではなく、拉致問題の解決を最優先課題とする一方で、「自由と繁栄の弧」政策でロシアを牽制していた安倍政権時の方が篭絡しやすく、効果も大きかったように思います。
福田さんは、確かに以前からなぜかロシアに対してだけは強硬派なのですが、何しろレイムダック状態ですし、それに正直拉致問題に力を入れていません。たとえポーズだとしても、北朝鮮カードを切る相手として最適とは思えません。
プーチンともあろう策士が、なぜそんなタイミングで北朝鮮を安売りしようとするのか?そう考えると、あるいはプーチン大統領は、北朝鮮株が暴落するというインサイダー情報でもつかんでいるのではないかと勘ぐりたくなります。
その兆候は他にもあります。
北朝鮮をめぐる状況は、米ブッシュ政権の弱体化で、もう長らく北にとって好ましい方向に推移していました。北朝鮮に埋蔵するレアメタルの存在が脚光を浴び始めるなど、北への妥協により得られる利益も強調され始めていました。そして先月、アメリカの融和的姿勢は頂点に達しました。
北朝鮮のプルトニウム申告でテロ支援指定を解除か、米国
CNN 08年4月12日
米政府、核計画の検証完了前に対北朝鮮制裁緩和も
ロイター 08年4月18日
対北最強硬派の一人であるボルトン前国連大使は、検証手段なしの合意に踏み切ろうとするブッシュ政権の態度を、北への降伏だと非難しました。
Bush's North Korea Capitulation
WSJ 08年4月15日(英語)
ブッシュ政権のやり方を、クリントンやカーター政権と同列視するボルトン氏の主張は、ブッシュ大統領にとって最大限の侮辱です。
しかしここで、ブッシュ政権は唐突にUターンします。
去年9月にイスラエルが空爆したシリアの核施設への北朝鮮の関与は前々から疑われてきたことです。なぜその発表が今このタイミングでなくてはならないのか、また発表内容の信憑性そのものについても、強硬派の中ですら首をかしげる人がいます。
とにかくアメリカは、対北融和による合意という選択肢を、この発表で、それこそ不可逆的に破棄してしまいました。弱腰と見られることを何より嫌うブッシュ大統領が、黙って北朝鮮に妥協するとは考えにくいことでしたが、それにしてもなぜここまでの力技に出たのかどうも解せません。
これまで粛々と進めてきた対北融和を唐突に反故にしてしまったブッシュ。そしてやはり唐突に拉致問題に激怒してみせたプーチン。“ビッグボーイズ”たちの態度の豹変ぶりは、北朝鮮で何かが起きる前兆のような気がしてなりません。