さて、そんな夏真っ盛りの沖縄でのこと。
宿泊したリゾートホテルで、食事のときに三線奏者の女性がテーブルをまわり、民謡や沖縄風ポップスを歌うというサービスをしていました。
彼女がぼくら夫婦の座るテーブルの付近にやってきてリクエストをつのると、となりのテーブルに陣取る女性が、「子どもの帰りをちょっと待っていただけますか」と、たまたま席を外していた子どもの帰りを待つように頼みました。すぐに戻ってきた息子さんは小学校3年生くらい。母親は、「×××(子どもの名前)、なにかリクエストしなさい」と息子を促しました。
するとこの息子さん、物怖じせずに次々とリクエスト曲をあげていきます。それはもう不自然なほどはきはきと。
やがて三線奏者の女性は、客からカメラのフラッシュをあびながら、リクエスト曲を含めて4曲ほど歌い終え、挨拶をして引き上げの準備にかかりました。すると隣のテーブルの妙に快活な子どもが、もどかしそうにこう言いました。
「子役なの・・・」
「え、子役?おばさんのこと?何?」女性はわけがわかりません。母親が説明を始めました。それによると、その子は子役をしていて、×××(ジャニタレを主役に配し、テレビ局がスポンサーについて1年ほど前に宣伝攻勢をかけたリメーク映画)で重要な役を演じたということでした。
「今は髪が伸びたからちょっとわからないかな」と母親。
三線奏者の女性は「へー、そうなんだ!おばさんの方が一緒に写真撮って欲しいくらいだけど、今カメラ持ってないから残念だな。握手?おばさんの方から頼まなくちゃね。ありがとうございます。あ、写真撮ってくれるんですか?感激だな。×××さん(映画の中で母親役を務めた人気女優)はきれいでしたか?そりゃきれいでしょうね!へー」
三線奏者の、自分の役割を心得た大げさなリアクションは痛々しく、ぼくは直視することができませんでした。カミさんを見ると、何か言いたそうに口をふるふるさせています。しかし母親の方は気まずい空気を感じられないようでした。
「今回はプライベートで来てるんです」
そんなことを言いながら、奇妙な母子2人は、三線奏者より先に席を立ちました。離れ際に、「×××(子どもの名前)、みなさんにご挨拶しなさい」と母親に促された息子は、慣れた様子で付近のテーブルの客たちに手を振り、颯爽と引き上げていきました。