2009年07月04日

レアルポリティークの王様

マスコミから揚げ足取りの猛バッシングを浴び、右往左往しているうちに支持者からも見放されつつある感のある麻生首相。最後の希望は得意分野の外交で、近づくサミットに闘志を燃やしていることと思います。

さて、麻生さんの外交哲学といえば、安倍政権の外相時代に披露した「自由と繁栄の弧」です。先月30日には、これを膨らませた、「ユーラシア・クロスロード」構想を発表しています。

権威主義的な中国とロシアを取り囲むようにして、民主主義の価値観を共有する友好国を作ることを基軸としたこの構想、日本らしくなくアジアの枠を飛び出したスケールの大きな戦略で、頼もしいことこの上ありません。ただ問題は、弧に包囲される側の国、特に中国は、黙って弧の完成を見守るお人好しではないということです。

ジャーナリストのロバート・カプランさんが、5月に終結したスリランカ内戦について、現地取材の感想をこう述べています。

終結したスリランカ内戦で最も重大な事実は、中国が勝利したということです。中国の勝利は、数年前にアメリカと西側諸国が、スリランカ政府の人権違反を理由に軍事援助を打ち切ったためにもたらされました。政府軍に勝利が見え始めたときに、我々は援助を打ち切ったのです。中国はその隙間を埋め、政府軍に武器、弾薬、レーダーなど、あらゆる装備を提供しました。コロンボ市内の検問所で兵士が持つライフルは、AK47の中国版である、56式です。AK47に似ていますが、そうではありません。

その見返りとして中国が得たものは何か?中国はスリランカ南部のハムバントータに軍艦と商船のための港湾施設を建設し、他にも島中にさまざまな施設を建設しています。

ではなぜ中国はスリランカに接近したのか?スリランカは戦略的な要衝だからです。ベンガル湾とアラビア海、南シナ海とインド洋をつなぐ位置にあるからです。自国の所有ではないけれど、軍艦の停泊に使える港を、インド洋に数珠つなぎに建設するという、中国の計画の一環です。

政府軍は、26年間続いた反政府活動を、ほぼ完ぺきに制圧しました。・・・(反政府組織の)タミール・タイガーは、アルカイーダの数十人、数百人規模の人間の盾など問題にならない、数万人規模の人間の盾を作りました。彼らは政府軍と自分たちの間に民間人を配置し、「民間人を殺さないと俺たちを倒せないぞ」と迫ったのです。そして政府軍はそれを実行しました。数千人の民間人を殺したのです。

・・・

我々がイラクとアフガニスタンに取り憑かれている間に、中国は明確な世界戦略を組み立て、複数の国々のことを同時に考えているのです。

A Conversation with Robert D. Kaplan

インド洋を抑え、ユーラシア大陸の外縁をバルト諸国までなぞる「繁栄の弧」のさらに外側から逆包囲する中国。しかも、着々と結果を生んでいるのですからたいしたものです。先進諸国にはマネのできない、非情なレアルポリティークを実行する中国と、ぼんぼんの日本では、勝負にすらならないのではないかと心配になります。

20世紀初頭の大英帝国のように、なるべく有利な形で世界の警察の地位を返上しようとしているアメリカには、大国化する中国と敵対する意思はさらさらありません。そんなアメリカ頼みの日本など、インド洋のシーレーンを抑えられたら、熟したリンゴのように中国の手のひらに落ちていくしかありません。

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