カリフォルニア財政危機で高まるマリファナ合法化論争
また今月17日のワシントンポストには、犯罪学の立場から、「ドラッグを合法化すべき時だ」というコラムが載りました。
ドラッグ・ユーザーは一般的に攻撃的ではない。ほとんどの者は、ただハイになりたいだけだ。問題なのは、治安を乱し、ライバルグループと抗争する密売組織だ。違法売買は、カネとメンツをかけた抗争に銃で始末をつける環境を生んでいるのだ。
・・・対麻薬戦争を現場で経験してきた我々からすれば、戦争を終結するのは正しいことだ。それは我々すべて、特に納税者を益することになる。ドラッグの合法化を求めるのは経済的な理由からではないが、その恩恵は計りしれない。7月に行われたオークランドの住民投票は、4対1の圧倒的多数で、ドラッグに対する課税を承認した。ハーバードの経済学者ジェフリー・ミロンは、麻薬戦争を終結することにより年間440億ドルの節税になる一方、課税により330億ドルの税収を生むと試算している。
対麻薬戦争を止めれば、アメリカの物騒な界隈は立ち直るチャンスを得られる。労働者は安心してポーチで憩い、不良少年たちは犯罪者を仰ぎ見ることを止め、満杯の刑務所は本当の犯罪者を収監でき、そして何より、これ以上の警官の死を食い止められるだろう。
It's Time to Legalize Drugs
ここでいうドラッグは、大麻から抽出されるマリファナのことです。アメリカはもう40年も、麻薬戦争と称してドラッグ撲滅に力を入れていますが、マリファナの愛好家は2000万人にのぼるなど、効果は一向にあがりません。「もう無駄なことはやめて、現実を見よう」というわけです。
大麻の合法化を求める人たちの中には、こうした現実的な犯罪抑止や、経済的な観点からではなく、そもそも大麻を違法にしておくのはおかしいと考える人たちもいます。アメリカで大麻の栽培が違法とされたのは1937年で、その背景は極めていかがわしいからです。
大麻を追放して合成繊維を普及させたいオイル業界と政界の癒着、仕事を増やして組織を拡大したい麻薬取り締まり局の役所的動機、マリファナを常用していたメキシコ系移民への差別意識、撤廃された禁酒法に代わる道徳的なスケープゴート・・・、アメリカで政府の力が急激に増大したニューディール政策下、医学的な理由よりも、政治的な事情で決められたその背景を知れば知るほど、大麻を悪とする見方は、お上により植え付けられた幻想だとわかります。
だから日本も大麻の合法化に取り組めと言いたいわけではありません。マリファナをアルコールと同列と考えるならば、アルコールは飲まずに済めばそれに越したことはありません。今の日本人のほとんどはマリファナをのまずにいても別段息苦しさを感じないのですから、なにもわざわざ奨励するようなことをする必要はないと思います。今後アメリカがどうしようと、それに追随する必要はなく、日本社会の動向を見て決めればいいことです。
しかし、なぜ日本で大麻が規制され、悪魔視されるようになったのか、その起源だけは心に留めておくべきだと思います。
日本で大麻取締法が制定されたのは、1948年(昭和23年)のことでした。戦前の日本では、大麻は重要な農産物のひとつで、それこそ稲作と同じように、文化と深く結びついた存在でした。ですから当時の議会では、規制にあたり農産物としての大麻をどうするのか、さかんに議論されました。
○政府委員(久下勝次君) 私共も御指摘の点は心配をしないでもないのでございます。実は從前は、我が國においても大麻は殆んど自由に栽培されておつたのでありますが、併しながら終戰後関係方面の意向もありまして、実は時大麻はその栽培を禁止すべきであるというところまで來たのでありますが、いろいろ事情をお話をいたしまして、大麻の栽培が漸く認められた。こういうようなことに相成つております。併しながらそのためには大麻か ら麻藥が取られ、そうして一般に使用されるというようなことを絶対に防ぐような措置を講ずべきであるというようなこともありますので、さような意味からこ の法律案もできております。その意味におきましては絶対に不自由がないとは申せませんと思いますが、行政を運営する上におきましては、さような点をできる だけ排除して、できるだけ農民の生産意欲を向上するように努めております。
昭和23年6月28日 参院本会議
この答弁における「関係方面の意向」とはどこの意向のことなのか?言うまでもありませんが、あえて別の議事録から引用します。
○島村軍次君 尚二、三伺いたい。先程の桑苗の問題、御囘答なかつたから……。
それから私の縣だけではないと思いますが、「大麻の栽培禁止の問題」、これは直接の關係はない、GHQとの關係はありますが、これに對する經過なり、今後の見通しを一つ、重要な輸出農産物になる關係がありますので、この席で御發表を願いたいと思います。
昭和22年8月23日 農林委員会
というように、大麻の栽培規制は、GHQ(米進駐軍)からの指令だったわけです。アメリカ人は、彼らの価値観を移植するために、また米兵が日本で大麻に“汚染”されないように、アメリカ同様の大麻規制を、オキュパイド・ジャパンに強要したわけです。
以来60年、日本人は、法律を押しつけた当のアメリカ人など問題にならぬほどに、教条的に大麻を悪魔視するようになりました。大麻に対する見方は、いかに日本人の無意識の中に、今もアメリカが神として君臨しているかを示す現象のひとつなのです。