2009年09月02日

鳩山論文に象徴される世界と日本のズレ

世界に配信されて論議を呼んでいる鳩山次期首相の「友愛東亜論文」をめぐり、鳩山氏側は「寄稿したわけではない」「中身を歪められた」「グローバリゼーションの負の部分だけを申し上げるつもりはなかった」などと反論しています。

しかし細かい経緯はともかく、あの論文は鳩山氏により書かれたものであり、日本専門化のT・ハリス氏の主張するように、NYT掲載バージョンは決してその内容を歪めてはいません。

オリジナル論文の内容は翻訳により歪められていない。むしろオリジナルよりも優れている。オリジナル版は、「安直な反グローバリズムと、友愛の神秘思想と、感傷的な保守主義のごちゃ混ぜ」で、とても不安させる内容だ。だいたいオリジナル版において、鳩山はグローバリズムのプラス面について一顧だにしていない。オリジナル版は、翻訳要約版をだらだらと長く、読みにくくしたようなシロモノで、資本主義において人間は目的ではなく手段であるとか、資本主義は価値や伝統や共同体を破壊したなどという主張に1ページ近く費やされている。グローバリズムに対する唯一「優しい」言葉は、それを不可避としている点くらいで、だからこそそれに対抗するために日本はアジア諸国と協調し、補助金により地方を強化しなければならないと続けられる。
Hatoyama shifts the blame

友愛のいかがわしさは言うまでもないとして、もともと左翼的な資本主義批判に聞く耳を持たない人の立場からすれば、ハリス氏の批判には文句のつけようもありません。

しかし考えてみれば、鳩山論文のような主張は、金融危機勃発後はもちろん、それ以前から、日本のジャーナリズムにおいて当たり前のようになされてきました。NHKを筆頭に、規制緩和による格差の拡大を声高に訴え、マネーゲームの悪をあげつらい、改革路線は時代遅れだ、資本主義は曲がり角にあるのだと唱え続けてきたのです。

選挙公示日の社説で北海道新聞は、「規制緩和などの政策が家計にもたらした痛みは想像以上だった。・・・バラマキとの批判もある。無原則な財政支出に結びつくのでは問題だ。だが行き過ぎた「市場原理主義」を問い直そうとする動きが政策論争として本格化し始めた。そう前向きにとらえることもできるだろう」と書きましたが、表現の強弱はあれ、こうしたメッセージは、過去2、3年の日本の通底音でした。

だからこそ民主党の管代表代行は「資本主義の暴走を許す小泉改革路線は大きな間違いだった」と選挙戦で声を張り上げたのであり、次期首相はその文脈で、むしろ穏やかに己の信念を吐露したに過ぎません。

日本のマスコミは、鳩山論文の問題点を鳩山氏の「反米路線」に置いていますが、問題をそこに矮小化すると、より大きな問題を見誤ります。

アメリカ、いやアメリカだけではなく世界の識者たちは、鳩山氏の反米路線の基礎となる「いうまでもなく、今回の世界経済危機は、冷戦終焉後アメリカが推し進めてきた市場原理主義、金融資本主義の破綻によってもたらされたものである」とか、「冷戦後の今日までの日本社会の変貌を顧みると、グローバルエコノミーが国民経済を破壊し、市場至上主義が社会を破壊してきた過程といっても過言ではないだろう」とかいう言葉に、非常な違和感を感じているのです。

だいたい「市場原理主義」などという語彙は、欧米では極左の間でしか使われません。言葉の使い方から世界観まで、非常に安直な左翼ポピュリストそのもので、日本のような先進大国の次期首相の口から出てくる言葉とはとても思えないのです。

金融危機の衝撃を直接あびた欧州では、その直後に「資本主義の見直し」を訴える声も確かにあがりました。しかし各国政府は市場経済を見直すのではなく、あくまで市場経済を立て直すために市場に介入し、人々は左翼のデマゴギーに耳を貸さずにそうした姿勢を支持し、結局左翼勢力は軒並み衰退しています。

アメリカでは、確かにオバマ政権はエリート主義的ではありますが、しかし誰も市場経済の見直しなど求めておらず、そのことは、今回鳩山論文に憂慮を表明したニューヨークタイムズやワシントンポストはオバマサポーターのリベラル紙だということからもわかります。

要するに、今回の鳩山論文騒動から汲み取るべきことは、日本という空間では普通に聞こえる意見は、一歩日本の外に出ると左翼のアジテーションにしか聞こえないということです。日本のテレビ、新聞、雑誌で仕入れた情報をもとにして海外で昨今の経済状況について語ると、筋金入りの共産主義者かと疑われてしまいかねないのです。

日本とその他の世界に空気のズレがあること自体はおかしなことではありません。しかし問題は、ほとんどの人はそこにズレがあることを認識していないということです。これは洗脳の手法のひとつです。日本の真の敵は、そのズレを隠し、ズレを促進した「意志」にこそあるのです。

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