これがどれほどのことかというと、昭和的な例えになりますが、大阪で巨人の人気が阪神を上回ったようなものです。ボストンのあるマサチューセッツというところは、それほどまでに徹頭徹尾リベラルな土地で、あろうことかそんなところで、共和党の無名候補が勝ってしまったのです。
マサチューセッツ出身で、リバタリアン雑誌「リーズン・マガジン」のライター、マイケル・モイニハン氏が、ユーチューブにアップされたインタビューで、そのあり得なさをこんな風に表現しています。
この前フリードリッヒ・ハイエクのことを書いたプラカードを掲げている人を見たよ。子供の頃、新装版が出た「隷属への道」を買おうとしたけど、本屋に置いてなくて注文しなけりゃいけなかったんだ。そんな街で、「肩をすくめるアトラス」とかハイエクのプラカードを揚げた人が練り歩くなんて、ここがマサチューセッツだなんて信じられないよ。街路で共和党候補を応援するなんてもっての他で、保守派であることを公言するのも憚られた土地なのにね。
ハイエクとかアイン・ランドを例えに出しているところがいかにもリバタリアンですね。日本にいると、アメリカには上品なリベラル派と、銃を振り回す田舎者とキリスト教原理主義者しかいないように見えますが、ハイエクやランドをプラカードに書いて通じ合えるような、そういう層も存在しているのです。
そういうわけで、これでオバマ政権は事実上死亡しました。世界中のアンチ・フリーマーケット主義者を歓喜させた政権の誕生からまだほんの1年あまり、チェンジはチェンジでも逆方向へのチェンジで、アメリカは骨の髄まで保守化するに至ったのです。
経済危機を克服するために、去年の秋に中道右派を選んだドイツ国民。決然として自由を選んだアメリカ国民。さらにまもなく労働党を政権から放逐すること確実なイギリス国民。わが国の首相や財務相や金融相によれば、「市場原理主義」は終了したそうですが、どうやら世界はとんでもない方向に進んでいるようです。