先日IPCCは、2007年の報告書でなされた「ヒマラヤの氷河が2035年までに消失する」という記述の誤りを認めましたが、その背景が明らかになってきました。
Glacier scientist: I knew data hadn't been verified
報告書の執筆者の一人、ムラリ・ラル博士は、誤ったデータを載せた理由をこう述べています。
We thought that if we can highlight it, it will impact policy-makers and politicians and encourage them to take some concrete action.
そこを強調すれば、政治を動かせると思ったから
怖いですね。こういう話が出てくるのは、クライメート事件に次いで2度目です。科学と政治、そして、目的は手段を正当化するという態度の合体は、劇薬です。
しかし、博士の立場になって考えてみれば、そう驚くことでもないのかもしれません。当たり前のことですが、科学者もまた、邪な欲に溢れた人間です。研究費をたくさんもらいたいとか、社会的に認められて仰ぎ見られたいとか、自分の考える方向に世の中を動かしたいとか、そういう欲と無縁でいられるわけはありません。自分に都合のいいようにデータを改ざんしたり、大げさにアピールしたくなる気持はよくわかります。それは誰でも、日々実行していることです。
ラル博士の話を続けます。
Dr Lal said: ‘We knew the WWF report with the 2035 date was “grey literature” [material not published in a peer-reviewed journal]. But it was never picked up by any of the authors in our working group, nor by any of the more than 500 external reviewers, by the governments to which it was sent, or by the final IPCC review editors.’
元データの怪しさは承知していた。でも、執筆グループの仲間も、500人を越える外部の査読者も、草案を送付した各国政府も、IPCCの最終査読者も、それを指摘しなかった。
これはかなり怖いです。一流の頭脳を持ち、クリティカルシンキングを身につけた一流の科学者であるはずの人たち、さらに各国のエリート官僚たちまでもが、誰一人として初歩的なエセ科学に気づかなかったのです。こうなると科学というより、人間の無力さを感じてしまいます。
しかしこれとて、よく考えてみれば仕方のない所があります。何しろ彼らはみな同じ穴の狢です。科学者連中はもちろん、温暖化対策の名のもとに、社会に対してより大きな影響力を行使する大義名分を得る官僚と政治家たちに、温暖化論を疑う動機はありません。
同じ利益グループに属す人たちにいくらチェックさせた所で、所詮人間には見たい物しか見えません。彼らは知性溢れる有能な人々かもしれませんが、無我で無謬な超人ではないのです。
だから欧米のジャーナリズムには、温暖化派からいかにコケにされようと、温暖化論に批判的な声が絶えることはありませんでした。権威ある学者の主張だからと鵜呑みにせず、独自にデータの再検証をし、温暖化論に懐疑的な専門化にも発言の場を与えてきました。そして今こうして、科学者たちの間違いにチェックを入れることができたのです。
それに比べてこの国のマスコミは、何を根拠にヒマラヤ氷河の消失を大々的に報じていたのでしょうか?「偉い人たちがそう言ったから」というのであれば、それはジャーナリズムではありません。この事件の展開を見ていて一番のホラーはここです。