ガンジーという人は矛盾に満ちた人で、まわりには貞節を説きながら自分は女にだらしなく、西洋医学を否定して妻に薬を与えず死なせておきながら自分は薬を服用し、またトレードマークの半裸姿も、「あの男の貧乏はお金のかかる貧乏だ」と揶揄されたように演出にすぎず、実は富豪のパトロンを従えていました。いわば彼はブーメラン投げの常習犯で、ただしターンしてきたブーメランをことごとくキャッチしていた豪傑なわけで、鳩山首相の共鳴する心情はよくわかります。
それはともかく、施政方針演説の全文を読んでいて奇妙なことに気づきました。
政権発足当初は、鳩山外交の柱といえば「東アジア共同体」でした。しかし今回の演説では、明らかにトーンダウンしているのです。
その大きな理由は、もちろんアメリカへの配慮です。しかし演説の中で首相は、もうひとつ別の国に格別な配慮をしています。去年10月の所信表明演説では完全に無視されていたその国は、ガンジーの国、インドです。
演説でも触れているように、鳩山首相は去年の暮れ、12月27日から29日というきついスケジュールでインドを訪問しました。インド側からの強いラブコールにより実現し、経済のみならず軍事分野での協力まで討議されて、彼の地では「インド外交の勝利」と大々的に謳われた訪問でした。
中国とライバル関係にあるインドからすれば、日中同盟は大脅威です。だからインドは懸命に鳩山首相にアピールし、デートに誘い出すことに成功し、そしてどうやらハートをキャッチすることに成功したようです。演説の軸にガンジーをすえたり、インド訪問を取り上げたり、東アジアではなく、アジアという言葉を多用したりするのは、明らかにインドに対するオーケーサインです。
アメリカは別格として、経済はもちろん軍事に至るまでインドと特別な関係を持ちつつ、中国と同盟するのは不可能です。どうやら鳩山外交の柱である東アジア共同体の建設は、政権発足4ヶ月にして、早々に潰えたようです。
首相の敬愛するガンジーは偉人ですが、別に神様ではありません。その偉大さは、混沌するインドをまとめた「グレート・リーダー」である点にありました。だからいかに人間として不完全であろうと、彼の偉大さは揺らがないのです。
Gandhi knew what he was doing. Does our prime minister know what he is doing?