2012年02月02日

ステマに対する日米の認識の違い

今年の年明け早々、ステマが世間を騒がせたとき、「ステマはアメリカでは禁止されている。日本も規制しろ」という声をあちこちで眼にしました。

たしかにアメリカでは、「食べログ」事件で見られたような明確なやらせクチコミは、2009年以来規制されています。去年の春には、アマゾンでやらせ投稿をしていた企業が摘発されました。

Legacy Learning Settles With FTC Over Phony Online Reviewers

しかし、ステマというものを、文字通り「宣伝であることを隠して宣伝すること」とするなら、それはアメリカで普通に行われています。どうも日本では、このあたりが混同されている気がします。

アメリカはステマ天国です。たとえば映画の宣伝では、さかんにステマが用いられます。古くは1999年の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」。にせのウェブページを立ち上げて、映画がドキュメンタリーであるかのように見せかけて大ヒットしました。

最近では、2009年に公開されたパニックアクション「2012」が手の込んだステマを活用しました。「IHC(人類維持研究所)」という架空の団体を作り、地球滅亡時に「箱舟」に乗る人を募るテレビコマーシャルを流し、それらしいサイトも立ち上げました。



コマーシャルは、注意深く見ていれば映画の宣伝とわかるのですが、CMを身構えて見る人などそうたくさんいるわけもなく、真に受ける人が続出し、映画は世間の注目を集めることに成功しました。

去年公開された「リミットレス」は、さらに巧妙でした。「リミットレス」という映画は、脳を100パーセント活性化する薬を飲んで超人化する男のストーリーです。その映画がどんなステマをしたのかというと、ユーチューブにウソの動画をアップしました。それがこれです。



あらゆる街頭モニタをハックできる送信機を開発したという内容で、開発者本人がNYのタイムズスクエアで、iPhone で撮影した動画を街頭モニタに転送するデモンストレーションをしています。

本当だとすればすごい発明なので、この動画は一気にアクセスを集め、「ありえない」「いやありえる」と、コメント欄で真剣に議論されました。ところがその後投稿された続編の動画で、発明の裏側が明かされます。「この薬を飲んで脳を活性化したら発明できたんだ!」というわけです。

こうしたステマにより、「リミットレス」は、ウソ動画により直接注目を集めただけでなく、ユニークな宣伝をしたということも話題となり、飛躍的に知名度を上げたのでした。

日本では、このようなステマはほとんど行われません。法律の問題もあるのかもしれませんが、こういうステマをしても、消費者の反感を買うばかりで、逆効果だというのが一番の理由ではないかと思います。「2012」のようなコマーシャルを流せば、注目を集めるどころかパニックになるかもしれませんし、「リミットレス」のようなウソ動画を作れば、コメント欄は罵倒で埋め尽くされるに違いありません。

一方アメリカでは、上記のようなステマに対し「うまいことするなー」という賞賛が大勢です。なぜ日米の反応が違うのかというと、情報の接し方に大きな違いがあるからです。アメリカでは、宣伝や情報メディアをプロパガンダととらえて警戒する傾向が、日本より強いように思います。いわば宣伝とはそもそも「騙しのテク」なのだというところからスタートしているので、騙そうとする行為自体には寛容で、クリエイティブな騙し、ウィットに富んだ騙しを賞賛する態度が生まれるわけです。

それに比べて日本は、宣伝や情報メディアを信用するところからスタートします。だから、へたな騙しだろうとうまい騙しだろうと騙しは騙し、許せない、となります。日本的な感覚に従えば、あらゆるステマは消費者を愚弄する悪の行為と見なされるのです。

アメリカでも、ステマを消費者への愚弄と受け取る場合があります。その代表は、2006年にソニーが行ったステマです。プレイステーション・ポータブルの宣伝のために、にせのファンサイトを立ち上げたのですが、ヤラセを暴かれたあげく、ソニーブランドを著しく貶めることになりました。

ヒップホップ好きな若者が立ち上げたサイトという設定で、「ダチが親にクリスマスプレゼントでPSP買ってくれっつってんだけどヨー、親がPSPの魅力をぜんぜんわかってねーわけ。つーこってみんなでヨー、PSPの良さをダチの親にわからせてやろーぜー」という調子で仲間を募り、次のようなPSPを賞賛する「自作ラップ」などをユーチューブにアップしました。


ニセのサイトや動画を使ってステマをする点においては、「2012」や「リミットレス」とそう変わりません。しかし消費者は激怒しました。なぜか?ずさんだからです。とってつけたような若者言葉に、若者というわりにはおっさんにしか見えないPSPラップの演者、そして曲のセンスのなさ。すべてが目も当てられぬほどにダサくて適当だったからです。

ステマという行為それ自体への怒りではありません。「これほどまでに低レベルなステマで人心をつかめると考えているなんて、ソニーが消費者をどう見ているかよくわかった。人を愚弄するにもほどがある!」というわけなのです。

アメリカで「やらせクチコミ」が規制されている理由もそこにあります。やらせクチコミは、ステマだから悪いのではなく、ステマとして外道中の外道と見られているから、そしてそういう共通認識を前提として法運用できるから、禁止されているのです。

だから日本では、やらせクチコミは法規制できません。「許されるステマ」と「許されないステマ」が区別されていない日本では、やらせクチコミを禁止すればあらゆるステマが禁止されることになり、ひいてはあらゆる宣伝を違法とすることにつながりかねないからです。



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