2012年02月04日

ネットの暗部は、ネットにより作られたものではないということについて(1)

新聞社やテレビ局の会長ならともかく、ネット企業の会長からこんなコメントが飛び出してくるとは驚きました。

ドワンゴ川上会長「中国のようにネット言論は国で規制すべし」

記事によれば、津田大介氏のメルマガで、津田氏とドワンゴの川上会長が、次のようなやり取りをしていたそうです。

津田:2006年頃、ボクシングの亀田興毅選手がネットなんかで嫌われていた時期ありましたよね。当時、モーグルの上村愛子選手がブログに「亀田興毅くんの世界タイトルマッチに興奮です(>_<) よかったねー! がんばったねー(T_T)」と書いたら、亀田を応援するのか、ということでブログに1500件以上もの批判コメントが寄せられ、大炎上するという事件がありました。別に個人がスポーツを見てどんな感情を持とうと自由じゃないですか。でも、「亀田は叩くものだ」という空気に支配されてブログのコメント欄で上村愛子を叩く。あの時「ネットも来るとこまで来たな」と恐ろしく思いました。川上さんはこういう問題を解決するアイデアを何かお持ちですか?

川上:そういう意見が社会的に影響を及ぼすようになったら、規制すべきだと思います。中国って多分、そこらへんについてはネットの先進国だと思うんですよ。国として規制しているから。どこかに悪影響が出るかたちで規制するとなったら、それは良くないだろうけど、「国として規制する」という方針自体は正しいと思います。

ぼくはメルマガを読んでいないので全体のコンテキストはわかりません。しかし、元記事に揚げ足取りの側面があると仮定しても、ひどい冗談です。

たしかにネットには醜い面があります。ぼく自身、それでネットに絶望しかけたこともあります。しかし最近強く確信するようになりました。ネットの醜い面は、ネットにより生み出されているわけではありません。醜さはもとからそこにあり、ネットはそれを露見させているだけなのです。

「炎上」は、ネットの醜さの代表です。炎上が起きると、人々はネットの恐ろしさに顔をしかめます。しかし、炎上という現象は、はたしてネットが生み出したものなのでしょうか?そしてネットがなくなれば消える現象なのでしょうか?

そうとは思いません。炎上という現象は、ネットが登場するはるか以前から存在していました。ただそれはバックステージで行われ、大衆の眼から隠されていただけなのです。

テレビや新聞が情報メディアを独占していた20世紀、炎上という現象は、報道被害などと呼ばれていました。事件の関係者にあらぬ疑いをかけたり、政治家の言葉尻をとらえて罵倒したり、アスリートやタレントの私生活について妄想を撒き散らしたりと、マスメディアは多くの人々を血祭りにあげてきました。そしてマスメディアの情報シャワーをあびた一般ピープルは、無自覚のうちにイナゴと化し、マスメディアに押しつぶされる人々に冷たい視線を送り、人格圧殺に加担してきたのです。

ただ、そうした20世紀型炎上により人生をだいなしにされた人々の苦しみは、大衆から隠されてきました。世に知られる報道被害の被害者は、全体からすればほんの一握りにすぎません。ほとんどの被害者は、反論の場さえ与えられずに泣き寝入りしてきました。ネットは、そうした炎上のプロセスをむき出しにしただけなのです。

炎上と同じように、以前から存在していたのにもかかわらず、ネットによりむき出しにされたために、ネットの悪のように思われている現象に「ステマ」があります。

「今〜が人気!」というサクラ商法から、子会社の仕事を増やすために行われるNHKの報道まで、マスメディアはステマの別名と言えるほどにステマ天国です。しかし一般ピープルは、つい最近までそのことに無自覚でした。しかしネットをしていれば、ステマというものを意識せざるをえません。人々はネットを通じて、これまで関係者以外出入り禁止だったバックステージを覗き込んだのです。

マスメディア時代の炎上やステマに対し、人々はたいてい無自覚で、ときにその醜い姿を垣間見たとしても、他人ごとのように感じていました。マスメディアの中の人も同様で、誰も問題としない問題とわざわざ真摯に向き合うわけもなく、ケロリとした顔で犠牲者を踏みつぶし、大衆を騙し続けてきました。

しかしネットの炎上やステマは違います。それは否応なしにすべてのネットユーザーに、自分たちの問題としてつきつけられます。だから人々は、炎上について考え、ネットイナゴにならないように自らを律し、炎上が起こりにくいシステムを開発しようと努力するのです。ステマに警戒し、騙されないようにリテラシーを高めようと努力するのです。

そうした努力は、すぐに効果は出ないでしょう。しかし、失敗と逡巡を重ねつつも、着実に改善していくはずです。そして、ネットの炎上やステマを防止しようという姿勢は、ネットだけでなく、マスメディアに見られる炎上やステマという病気を、その根本から断つことにつながるのです。

ネットの暗部に規制でフタをするというのは、だから愚策中の愚策です。脅威が迫ると砂の中に頭を隠すダチョウと同じです。見えなくすれば問題がなくなるわけではないし、むしろ見えないことで問題は継続するのです。

そういうことに思いが及ばない人がネット企業のトップにいるというのは、ネタでなければ悲しむべきことです。

さて、ネット炎上の背景については、もうひとつ大きな理由があると見ています。それは、ネットというよりも、マスメディアの問題になります。しかし、それについて書き始めると長くなりますので、次回のエントリーで考察します。



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