2012年02月10日

溺れるマスコミはAKBをつかむ

AKBのメンバーの母親が未成年者と淫行して逮捕されたという話題。テレビや新聞がほとんど伝えないので、事務所からの圧力がかかったのではないかなどと騒がれています。

テレビ・新聞が報じない“AKB高橋みなみ母逮捕”…「圧力か」とネットで話題に

あくまで母親のしたことであり、本人にはなんの関係もないので、そもそもこんな話題を報じる必要などないといえばそれまです。しかしテレビのワイドショーにしてもスポーツ新聞にしても、普段はこういうどうでもいいことに眼の色を変えて大騒ぎしているわけで、これをニュースでないとするなら、伝えるネタなどなにもなくなってしまいます。

熟女と少年の姦通事件は、ただそれだけでも下世話な興味をひく立派なゴシップニュースです。それに加えて、熟女の娘が「国民的アイドル」の一員ともなればニュースバリューは抜群です。飛びつかないのは不自然としか思えません。

ではどうして報じないのでしょうか?圧力があったかどうかはわかりません。ただ、これはマスコミに限らずどの世界でもそうですが、闇雲に圧力をかけたところで誰も従いません。それどころか、圧力をかけたことが反発を生み、一層ニュース性を高め、逆効果になる可能性すらあります。

圧力というのは、圧力がきく土壌が整えられていてはじめて効果を発揮します。マスコミの中に、「このネタは避けるべきかもしれない」と思わせる空気があるかどうかが大事なのです。その空気さえあれば、たいていの場合は圧力をかける必要さえなく、マスコミが勝手に自粛してくれます。万が一、空気の読めない跳ねっ返りが騒いだとしても、拡大することはありません。

思想家のジャック・エリュールは、古典的名著「プロパガンダ」(→日本語未訳、英語版)において、集団を操るときに最も肝心なのは、空気づくりであると述べています。時間をかけて入念に空気を作っておけば、あとは軽く煽るだけで、集団は思いのままに操れるのです。

だから、具体的な圧力の有無について詮索したところで意味はありません。圧力があったにせよなかったにせよ、マスコミに自粛ムードがあったのは確実で、その空気が何によってもたらされたのかに、事の本質はあるのです。

では、なぜマスコミはAKBを貶めたくないのでしょうか?利権が絡んでいるから?もちろんそれもあるでしょう。しかしより根源的な理由があります。AKBを貶めるのは、マスコミの存在意義を貶めることになるからです。

マスコミを無色透明な情報伝達屋と思っている人にはピンとこないかもしれませんが、実はマスコミというのは「ブーム製造機」と呼んだ方が、その性格を正確に表現しています。それがマスコミの力の根源であり、ブームの作れないマスコミは、マスコミではありません。

ところがここ数年、いくら手を尽くしても、一向にブームが作れません。そんな中「国民的アイドル」AKBは、韓流とならぶ数少ないブームなのです。

まだ動画サイトが一般化していなかった00年代中頃までなら、マスコミはいくらでも「作品」を作ることができました。いくら潰しても替えには困らないので、むしろ自在に作品を作り壊すことこそ、マスコミのパワーの証でした。

しかし、いよいよ韓流も限界が見えてきた今、もしAKBを失ったら、マスコミにはもう何も残りません。マスコミの力を示すランドマークが、ひとつもなくなってしまいます。だからAKBを傷つけるわけにはいかないのです。

とはいえAKBは、過去の国民的スターと同じように、マスコミの威光により作られたブームなのかと問うなら、少し違うような気がします。

AKBというのは、ファンを酔わせるタイプというよりも、マスコミを酔わせるタイプのアイドルに見えます。「秋葉原の劇場でファンとふれあい、インターネットで火がつき、テレビという表の舞台に上り詰めてきた」というAKBのストーリーは、いかにも20世紀的な文脈での「ネット時代のアイドル」です。

そこではネットはオマケであり、あいも変わらずマスコミが頂点に君臨しています。それはまさに、90年代の終わりごろにマスコミが描いていた未来、大衆とマスコミをより強固に結びつける手段としてのネットに期待した、ネットとマスコミの融合そのものなのです。

「ひとり電通」プロデューサー氏は、そんなマスコミの欲する幻想をそのまま形にして世に送り出し、それにマスコミはとびつき、大衆を踊らせるイコンに祭り上げました。しかし大衆は思うように踊りません。ドラマはコケ、映画はコケし、売れるのは握手券ばかり。ブームといえば確かにブームのようですが、過去のブームとは何かが違います。

大衆を踊らせられないブームは、走らない車と同じです。自らを元気にしてくれる幻想にしがみつくマスコミは、握手券をまとめ買いするファンとなんら変わらないのです。



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