2012年02月15日

Kポップのドイツ征服

マスコミの芸能記事というのは、通常プロモーターがネタを持ち込みます。ネタに共感できる場合、ライターは嬉々としてヨイショ記事を書きます。ネタに共感できず、しかもさまざまな理由でボツにもできない場合、たいていのライターは仕事と割り切り、プロモーターの宣伝文句そのままに、定型文を重ねてお茶を濁します。しかし骨のあるライターは、プロモーターを満足させるように表面を繕いつつ、自分の意見を編み込みます。

ドイツの新聞で、そういう記事を見つけました。記事は「BEAST」というボーイズグループのベルリン公演を前にして、Kポップの魅力を伝える内容です。一見するとただのプロモーション記事なのですが、よく読むとかなり辛辣な含みを持たせた文章です。

Schön frisiert und wohlerzogen

記事のタイトルは「きちんとしていて品行方正」。「Kポップの歌手はみんないい子で、不良に見えても好青年なの」というファンの声からタイトルをつけています。ポップ・グループの売り文句としては、これだけで嫌味な感じがしないでもないですが、行儀の悪いアイドルが多い欧米では、必ずしもマイナスポイントとはいえません。しかし記事を読み進めていくと、このタイトルが違う響きを持ち始めます。

記事では、Kポップファンは韓国人だけではないと語り、ベルリン在住のKポップファン、エスター・クルンクさんを紹介します。ところがこのクルンクさんの熱狂ぶりを伝える描写がへんです。

彼女はベルリンのKポップシーンの中心にいる。ファンクラブの会員約150人は、在ベルリンの韓国人が3000人であることからして少なくない数であり、メンバーは着実に増えていると彼女は語る。31歳のクルンクさんは韓国文化に魅せられている。彼女は韓国大使館の文化センターでボランティアとして働き、ファンクラブのミーティングを企画、主催している。さらに彼女はオンラインマガジンのwww.k-magazin.comを立ち上げ、韓国の文化、音楽、映画、文学について伝えている。去年の8月には、ドイツで初のKポップナイトを開催し、11月にはKポップコンテストを開催した。いずれもライプツィガープラッツの韓国文化センターで行われたものだ。「トリアーから来た23歳のコンテスト優勝者は、バックダンサーとして韓国に招待され、Kポップワールドフェスティバルに出演しました」とエスター・クランクさんは語る。

クルンクさんはドイツの外にも活動の網を広げている。スイスの友人とともにスイスでKポップフォーラムサイトを立ち上げ、去年から「最も愛されている賞」を発表している。ネット投票で最も人気のあるKポップバンドを決めるのだ。「毎月50万のビジターがいて、7万5千人が投票しました」とクルンクさん。

ここまで書くと、彼女はただのファンではないと言っているようなものです。どう見ても彼女は、韓国文化センターのエージェントです。

この後記事は、ユーチューブで6000万回再生を記録したことなど、BEASTとKポップの偉業を滔々と語り、終盤にさらりとこう書きます。

Kポップファンはたいてい非常に若く、よく組織化されている。フェイスブックを通じて、ハンブルク、シュツットガルト、ベルリンでファンミーティングが行われ、去年の夏にはポツダマープラッツとアレクサンダープラッツ、ブランデンブルク門で、若い娘たちが踊るフラッシュモブが行われた。このブームは、韓国文化を世界市場に売り出したい韓国政府から支援されている。韓国政府は、ポップカルチャー産業のために専門の部署を創設した。歌手たちは早いうちからコンテストで発掘され、システマティックに育成される。

こうなるともう明白で、筆者はKポップを、国家により推進され、隠れエージェントを軸として組織的にステマされる胡散臭いブームであると告げているのです。そして歌手たちは、「schön frisiert=きれいにトリムされ」「wohlerzogen=念入りに育成された」お人形というわけです。

ただ筆者は、直接Kポップを批判するような言葉は一切使っていません。そしてその一方で、あたかもプロモーターからもらった資料をそのまま書き写したかのように、Kポップの躍進ぶりを書き重ねています。だからKポップのファンは、「ドイツの新聞にのったー!」と喜んでいるようです。

「何だかなー」と感じたときの各国の反応は違います。日本人はとりあえず笑顔を繕い、アメリカ人は無視し、イギリス人はお下劣な皮肉を、フランス人はお上品な皮肉をあびせます。それで行くと、ドイツ人は感情をそのまま口にせず、事実を組み上げることで皮肉を表現するというところでしょうか。

というわけで、Kポップのドイツ侵略は厳しいスタートを切りました。しかし見通しは暗くありません。すでに征服を終えた日本に無駄に投入し続けている宣伝リソースをドイツに振り向ければ、欧州制圧はもう目の前です。

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