P2Pの「お仕事依頼サイト」は働き方の概念を変えるか
Task Rabbitは引っ越しの手伝いから部屋の塗装、使い走りまで、ありとあらゆるタイプの仕事の依頼を掲載できるサイトで、誰かがコンピュータや出先からGPS対応のスマートフォンを使って投稿した仕事の依頼を希望者が入札できる仕組みになっている。
スマートフォンのGPS機能を使い、仕事の依頼者と受ける人の場所と時間をマッチさせるこのサービスは、ネットを介して不特定多数の群集(crowd)に仕事をアウトソーシングすることから、クラウドソーシングなどと呼ばれたりします。
仕事を依頼する方の利便性はもちろん、仕事を受ける人は、仕事をしたいときに「誰からも指図されず、引き受ける仕事を自分で選べるので素晴らしい気分」になれる、これからの時代にふさわしいサービスだと思います。
記事では、Task Rabbitを画期的な新サービスとして伝え、次のようにその大きな可能性を讃えています。
今後、仕事を入札するためだけでなく仕事の依頼を投稿するためにこうしたサイトに集まる人が増えていけば、われわれは仕事というものの概念の変化を目の当たりにすることになるかもしれない。「まだゲームは始まったばかりだが、われわれは働き方についての人々の概念を変えつつあるのではないかと思っている」とローズデール氏は語っている。
しかし、クラウドソーシングはアメリカで生まれたイノベティブなアイディアというわけではなく、もともと日本のほうが先んじていました。
というのも、GPSつきのiPhone3Gが登場したのは2008年で、Task Rabbitの設立も同年ですが、日本ではそれ以前からGPS対応のガラケーが広く普及し、GPS機能を活用したさまざまなサービスが考案されていたからです。クラウドソーシングはそのひとつでした。
しかしその後日本におけるクラウドソーシングは伸び悩み、後発のアメリカに大きく水を開けられてしまいました。
テレビの世界と手を切る直前の2007年に、NHKの某情報番組で働いていたぼくは、ネタを探していてクラウドソーシングについて知りました。そして「これは労働の概念を変えるかもしれない」と直感して企画にとりかかりました。しかし結局企画はボツになりました。
そのとき言われた上司の言葉は今でも忘れられません。クラウドソーシングの概念について説明するぼくを制して、彼は呆れたようにこう吐き捨てたのです。
「それ、日雇いだろ」
当時のNHKは、「ワープア」と反派遣労働キャンペーンの真っ最中で、局内は自由主義的な刷新を排撃する空気に満ちていました。そこでは、クラウドソーシングのようなサービスは、正規雇用の対極にある悪質なサービスでしかないのです。
NHKの奮闘により、正規雇用以外の労働を卑下する考え方は社会に深く根を張り、日本から生まれたかもしれない労働の革新はブレーキをかけられました。そして今、アメリカで生まれつつある「イノベーション」を見て、「アメリカは革新的だなー」と日本人はため息をつきます。切ない話です。