2012年02月20日

お粗末なプロパガンダ

大阪のMBSが放送した教育改革批判の報道に、橋下市長がツイッターで怒っているそうです。以下はユーチューブで見られる問題の報道ですが、そのうち消されるかもしれません。



2日にわたって放送されたという特集の骨子は以下のようなものです。

1:橋下氏が提唱する教育改革はアメリカの「落ちこぼれゼロ法」に酷似している。
2:「落ちこぼれゼロ法」は失敗したといわれている。
3:橋下氏の教育改革と「落ちこぼれゼロ法」はサッチャー改革を下敷きとしている。
4:市場主義的なサッチャーの教育改革は失敗したといわれている。

従って、市場主義的な大阪の教育基本条例は、世界ではすでに失敗とされている愚策というわけです。しかしこれは非常に党派的で、イメージ操作に満ちたレベルの低い報道と言わざるをえません。

VTRでは、「落ちこぼれゼロ法」を紹介するときに、意味もなく旅客機がツインタワーに突入する映像を見せたりして、ネオコンで新自由主義のブッシュ政権により作られた悪法であるというイメージを作ろうとしています。

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たしかに「落ちこぼれゼロ法(No Child Left Behind Act)」は、ブッシュ前大統領がサインした法律です。しかし同法はなにもブッシュの独断ではありません。911テロ以前から共和党と民主党が党派を超えて連携し、圧倒的多数で可決した法律でした。

「落ちこぼれゼロ法」は、番組が述べるようにサッチャー英元首相の市場主義的教育改革を参考にしました。番組ではそれを「イギリス国内で失敗したと言われている」の一言で片付けています。

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サッチャーの教育改革法は1988年に施行されました。保守党政権は1997年まで続き、その後労働党に政権交代しました。サッチャー改革が失敗であるなら、労働党政権はそれを元に戻したはずです。しかしそうはしませんでした。それどころか労働党政権は、サッチャーの市場主義的教育改革をより徹底して押し進めたのです。

サッチャーの教育改革が失敗ならば、なぜ労働党政権はさらにプッシュしたのでしょうか?なぜアメリカ民主党はそれをお手本とした教育改革に賛同したりしたのでしょうか?

「落ちこぼれゼロ法」に問題があることはたしかです。オバマ大統領は、つい先日法律を見なおしたばかりです。しかし、法律の市場主義的、競争主義的な側面を見なおしたわけではありません。それまで連邦政府が一律に決めていた達成基準を、州ごとに決められるようにしただけのことです。改正により、むしろこれまで以上に点取り競争が激化するのではないかと危惧する声さえ聞かれます。

番組に出てくる教育学者のダイアン・ラビッチ氏は、「落ちこぼれゼロ法」は効果が出ていないので元に戻すべきと主張し、オバマ大統領による法改正をお門違いと批判しています。しかし教員組合を除けば、彼女のような主張は少数派です。

ラビッチ教授の同僚であるチェスター・フィン氏は、ラビッチ氏の態度をノスタルジアだと批判し、教育改革は避けて通れないことであり、改革がうまく行かないのは、改革が中途半端だからだと述べています。

Eight questions for Chester Finn

アメリカは試行錯誤しているのです。そして今のところは、教育改革は必要であり、そのためには競争原理により教員の質をあげるしかない、という方向に動いているのです。

MBSの報道は、都合のよい事実ばかりを探して組み上げれば、どんな風にも伝えられるという見本です。こんなチープなプロパガンダをドヤ顔で流されたら、橋下氏が腹を立てるのも無理はありません。

橋下氏は、ラビッチ氏やフィン氏を招いてシンポジウムでも開いたらいいと思います。ラビッチ氏は競争主義的教育改革には反対していますが、教条的な左翼ではありません。よりよい教育改革のために、参考になる話が聞けるに違いありません。

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