2012年02月21日

広告屋に踊らされる日本政府

シンガポールで撮影された、AKBを大々的にフィーチャーした「クールジャパン」バスの画像がネット上に投稿され、一部で批判されています。

AKB48が「税金を使って海外で宣伝している」と物議

「クールジャパン」は経産省の国家ブランド増進プロジェクトですが、バスの広告に表示されているURLに行くと、AKBのショップに導かれるようになっているそうで、これでは国が税金でAKBの海外プロモーションをしていると見られてもしかたありません。

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「クールジャパン」は、1990年代末に生まれた「国家ブランディング」という概念をもとにして行われています。国家ブランディング活動のパイオニアは、同時期にイギリスが行った「クール・ブリタニア」でした。

当時はオアシスやブラーのような「ブリット・ポップ」全盛の時代で、それを国がかりでバックアップし、イギリスはクールな国であるというイメージを世界に広めようとしたのでした。

ところが今「クール・ブリタニア」といえば、自嘲と皮肉の言葉でしかありません。多額の税金を注ぎ込んだのに目に見える結果は出ず、それどころかその軽薄な宣伝手法により、イギリスの対外イメージを傷つけたとさえ言われています。

最近最も活発に国家ブランディング活動をしているのは韓国ですが、一部の発展途上国は別にして、日本では嫌韓ムードを醸造し、台湾や中国でも同じ状況で、またアメリカやヨーロッパでは国家によるアイドルのセールスを嘲られています。

というように国家ブランディングには、成功例というものがありません。それなのに日本は、失敗例に学ばず今同じことをしているのです。

国家ブランディングという概念の創始者は、イギリスの政策アドバイザーで、毎年「国家ブランド指数」を発表しているサイモン・アンホルト氏です。2008年に行ったインタビューで、アンホルト氏は次のように述べています。アンホルト氏の言葉を読めば、いかに日本政府がトンチキなのかわかると思います。

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…国のイメージをマーケティングで変えようという試みは、まったくもって実りのない行為です。人々が持つイメージは、長い時間をかけて培われたもので、CNNで20秒の宣伝を流したからといって変わりません。ひと目でプロパガンダだと見破られてしまうので、本能的に拒否、あるいは無視されてしまうんです。

…国家ブランディングという用語を作ってしまったことを後悔しています。わたしはただ、国家にはイメージがあり、それは企業にとってのブランドイメージと同じくらい重要なのですよと言いたかっただけです。国家イメージを操作できるという含みはありませんでした。ですから国家ブランディングという言い方は間違った用語なんです。最近ではなるべく使わないようにしています。わたしの新刊は「Competitive Identity(競争力のある国家アイデンティティ)」というタイトルですが、これも国家ブランディングという言葉を置き換えたいという試みで、人々の幻想を覚ますために、わざと退屈な呼称にしたんです。

…国家ブランドをあげようという取り組みは、大きな危険をはらんでいます。わたしの経験によれば、政府高官や役人はとても知的レベルが高い人たちですが、民間の商売のやり方には疎いです。マーケティングとかマーケッターとか言われると、それだけですごいと思い込んでしまうんです。ナイキの宣伝に成功した人なら、政府の広報活動もまかせられると思い込んでいるフシがあります。だから政府は広告代理店のカモになりやすく、それらしいスローガンやロゴに大金を出してしまいます。そしてたいていの場合ほとんど効果がなく、それなのに効果を査定しようという試みがなされません。だからとても危険なのです。マーケティングで国家イメージを変えませんかと売り込んでくる人はたくさんいますからね。でもそんなのは出まかせです。

*以上のインタビューは全文が「フォーリン・アフェアーズ・リポート」で日本語訳が読めますが、該当箇所に致命的な誤訳があったため、原文「Anholt: Countries Must Earn Better Images through Smart Policy」から訳出しました。

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