2012年11月22日

マスメディアとカルト

インターネットの普及による弊害として、カルト宗教が広がるのではないかと、かつて危惧していたことがあります。
インターネットはマスメディアの力を削ぎます。カルト宗教に批判的で、人々を常識という牢屋に閉じ込めるマスメディアが衰退すれば、カルトが跋扈するのではないか?そう考えたのです。

またインターネットは、偏った世界観を抱く人たちが連携しやすく、それもまた、カルトの蔓延にはおあつらえ向きの環境です。

ところが、インターネットがマスメディアのヘゲモニーを揺るがし始めてかれこれ10年ほどたちますが、カルトブームが起きる気配がありません。もちろんカルト教団は多々あり、準カルトとでも呼ぶべき陰謀論もあちこちで見かけます。しかしそれらは昔からあるもので、近年力を増しているという風には見えません。それどころか、その反対のトレンドすら嗅ぎ取れます。

自分の予想はどこで間違えたんだろう?

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そう考えているうちに、推論の前提に間違いがあることに気がつきました。マスメディアとカルトは対立するものではないのです。

オウム真理教の犯罪にTBSが関与していたのはよく知られていますが、オウムが伸長し1995年に暴発するまでのあの頃、マスメディアとカルトの深い仲はそれにとどまりませんでした。

あの頃、テレビのワイドショーと週刊誌は、連日カルト宗教ネタで視聴率を稼いでいました。表向きはカルト叩きでしたが、若い女性信者と高学歴信者を前面に押し出した派手なオウムと、タレントの合同結婚式参加で一世を風靡した統一教会は国民的見世物であり、マスコミはただ彼らの動向を外から伝えるのではなく、能動的に関与して、「リアリティ番組」に仕上げていたのです。

それだけではありません。1980年前後からスピリチュアルな話題をプッシュしていたテレビと出版界は、1990年頃には「心霊ブーム」を招来し、スター霊媒師はゴールデンタイムの顔に昇格していました。朝の番組で占いを流し始めたのも90年代初頭で、スピリチュアルな世界を大衆の日常に刷り込んでいました。

いわばマスメディアは、自ら肥やしをまいてカルトの育つ土壌を作り、そこに実った甘い実を食べていたわけです。簡単にいえばマッチポンプです。

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さらに考えてみれば、そもそも今日的な意味でのカルト宗教の起源は、マスメディアの登場と時期を同じくします。

欧米における新宗教運動(ニューエイジ運動)の祖は、19世紀末に大ブームを巻き起こした霊媒師、ブラヴァツキー夫人とされていますが、それはまさに新聞が普及し、マスメディア時代に突入したのと同時期でした。

日本では、日露戦争がスイッチとなり急速に新聞が普及しましたが、やはりその時期、「大本」「太霊道」「ほんみち」など、数々の新宗教が生まれています。

こうして見ると、カルトはマスメディアとともに生まれた、同じコインの表と裏、正統と異端のような関係と言えるかもしれません。

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そうであるならば、マスメディアの力が落ちているのにカルト宗教が今ひとつ伸びないのも納得できます。マスメディアの衰退はカルトを利するのではなく、カルトの存在意義をも脅かすのです。

311地震とそれに続く原発事故は、カルトにとってこれ以上ない発展のチャンスでした。 そして実際、各カルト教団は信者獲得に精を出している聞きますし、怪しげな陰謀論、ニセ科学も跋扈しました。しかし、今のところその被害は最小限に留まっているようです。

むしろ、もしインターネットが存在せず、情報がマスメディアだけであったなら、人々の不安は情報不足により増幅され、マスメディアの吹く笛に乗れない人々は疎外され、新たなカルトムーブメントの温床となったに違いありません。

あらゆる人に向けたあらゆる情報が散りばめられたインターネットは、規格情報しか流せないマスメディアほどには人を疎外せず、従って、少なくても20世紀的な形でのカルト宗教の出番はないのかもしれません。

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