2012年11月29日

アメリカの野球チームが景気いい理由

日本のプロスポーツはファン離れと収益悪化に苦しんでいるのに、アメリカのメジャーリーグはウハウハです。

日本では日本テレビの巨人戦中継(地上波)が全盛期と比べて年々減少傾向にあるが、海の向こうアメリカでは、スポーツ中継のコンテンツ価値が飛躍的に上昇している。

現在、FOXスポーツがドジャースに支払う放映権料は、12年で総額3億5000万ドル(約288億円)。来季が契約の最終年となるが、ドジャースが新たにFOXに提示した契約は25年、総額60億ドル(約5000億円)の超大型契約で、場合によって70億ドル(約5760億円)に達する可能性もあるという。


放送権料10倍です。こういうニュースを読むと、「実はアメリカは好景気なのか?」とか「アメリカは野球ブームなのか?」と考えてしまいます。

いえいえ、日本同様アメリカは不景気ですし、野球人気も落ち目です。ついでに言えばテレビ業界も落ち目です。でも、放送権料は10倍に跳ね上がるのです。しかもドジャースだけでなくほとんどすべての球団で。

なぜだと思いますか?そのからくりは、アメリカのテレビ事情にあります。

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日本でテレビといえば、キー局を中心とした地上波放送ですが、アメリカでテレビといえばケーブルテレビです。アメリカのプロスポーツチームは地域に根ざしていますから、ケーブルテレビと相性がよく、すでに1970年代末から、スポーツ中継はケーブルのローカルスポーツチャンネルで視聴するものとして定着してきました。上の記事に出てくる「FOXスポーツ」は各地のローカルスポーツ局をたばねた最大手で、つい最近までメジャーリーグ中継をほとんど独占していました。

ところが今、そんなケーブルテレビのスポーツチャンネル界に変化が起きています。ライバル局が大金を積んでフォックスの牙城を崩そうとするなど、放送権獲得競争が激化し始めたのです。

競争激化の理由は、スポーツ中継の相対的地位の上昇にあると言われています。CMスキップ機能の普及により、ドラマやドキュメンタリーの広告価値は低下しました。さらに番組配信サイトの広がりにより、そうしたオンデマンド向きのコンテンツでは、テレビに客を集められなくなりました。

そんな中、CMスキップせずにライブで視聴されるスポーツ中継は、テレビの力を最も活かせるコンテンツとして再注目されるようになったのです。いわばスポーツ中継は、砂漠化して川や湖が干上がる中、最後に残されたオアシスのような存在なのです。

しかもオアシスに群がるのは、テレビ屋だけではありません。ローカルケーブル網という安価なインフラを使い、オアシス自身であるスポーツチームが、自ら放送事業に乗り出し始めたのです。

この動きは2000年頃に始まり、最初はヤンキースやレッドソックスのようなファンベースの大きな人気チームだけでしたが、やがて収益性が高いことがわかると、ファンベースの小さないわゆる「スモール・マーケット・チーム」も続々と球団放送局を立ち上げ始めました。

本拠地とする地域の人口が300万人に満たないクリーブランド・インディアンスのようなチームですら放送局を開設し、チームの試合中継を核としてその他の地域スポーツにも放送の枠を広げ、着実に事業を拡大しています。

というわけでアメリカのプロスポーツチームは、新しいビジネスモデルの開拓と「オアシス効果」による競争加熱により、放送局との関係において一人勝ち状態となり、ガッポガッポなのです。

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では日本のプロスポーツチームは、アメリカのケースに習い収益をあげられるでしょうか?

難しいと言わざるをえません。日本のテレビ事情は未だに地上波の独壇場であり、ケーブルも衛星放送もそれほど普及していません。従って地上波放送局を脅かす新規参入は期待できず、スポーツ中継をめぐる競争も起きようがありません。

ガチガチに固定化された地上波テレビを核とするメディア構造が壁となり、スポーツ中継に限らずコンテンツ産業へのカネの流れをせき止めているのです。

確かにアメリカで起きている状況はある意味過当競争であり、プロスポーツ自体が先細りする中、いつかクラッシュする可能性も否定できません。しかし、球団に落ちた大金は有能な人材を惹きつけ、産業全体を活性化させ、21世紀にふさわしい新しいスポーツの魅力を創造する土壌を育むはずです。

旧態然としたビジネス構造を守るためにカネが浪費される日本に比べ、いかに羨ましい状況であることか。一刻も早くこの壁を壊さないと、日本の大衆文化はテレビ局と心中することになりかねません。

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