2013年02月10日

架空戦記に見るステレオタイプ

架空戦記というジャンルがあります。戦国時代や第二次大戦を舞台に、もしもの世界を描くジャンルです。架空戦記は世界各国にあり、Uchroniaというアメリカのサイトには、たくさんの架空戦記が紹介されています。

架空戦記というのは、一般的に文化を異にする者には面白さが伝わりにくい、ドメスティックなジャンルです。本能寺を生き延びた信長の戦いぶりや、日本軍無双の太平洋戦記をハラハラドキドキ読めるアメリカ人はあまり想像できません。架空戦記というのは、あくまで自文化圏の人たちに向けた、自文化圏の人たちにカタルシスをもたらすために書かれたエンターテイメントなのです。

さて、そんな架空戦記ものですが、先日興味本位から、日米戦争を舞台にしたアメリカ産の架空戦記を読んでみました。アメリカ人が昨日の敵をどう見て、どんな所にカタルシスを感じるのか、肩の力の抜けた大衆レベルでのステレオタイプを楽しんでみようとしたわけです。

読んだのは、去年の暮れに発売されたばかりのロバート・コンロイ著「ライジング・サン」というベタなタイトルの作品です。ミッドウェー海戦で日本が米空母3隻を沈める大勝利をあげるところから物語は始まります。



太平洋全域の制海権を握った日本は、パナマ運河を特攻で破壊し、アラスカに上陸し、ハワイ島を占領し、米西海岸を脅かします。アメリカに残された唯一の空母サラトガを沈めて講和に持ち込もうとする日本を、劣勢のUSAは知力を尽くして迎え撃ちます。

話のトーンは主プロットに恋を絡めたハリウッド調で、ちょうど映画「パール・ハーバー」のような感じです。登場するアメリカ人はみなヒーローというわけではなく、ダメ軍人やダメ政治家、そして日系人を差別する偏狭なアメリカ人たちの姿も批判的に描かれます。また主役の米軍人は日本語を解す知日派であり、日本軍人もかなり人間的に表現されます。

日本の架空日米戦記の多くは、白人レスラーをぶちのめす力道山と同じで、日本人のアメリカに対する劣等コンプレックスに働きかける構造をしています。しかし先の日米戦争にわだかまりを持たないアメリカ人は、日本を巨悪として叩きのめすだけでは心に響きません。オープンな人間性を至上のものとし、それがアメリカの国家意志と融合して大きな困難を乗り越えるときにカタルシスを覚えるのです。

しかし、そうした微笑ましくもある典型的アメリカンエンターテイメントの中にも、日本軍の嫌なステレオタイプは登場します。武士道を信奉してやたらと自爆攻撃するのはご愛嬌。捕虜の首をその場でハネまくるのも、誇張されたマンガ的表現として我慢できます。しかし「性奴隷」の登場には暗澹とさせられます。

アラスカのアンカレッジを占領した日本軍は、現地女性をことごとくレイプします。またハワイ島では、現地女性を強制的に連行して慰安婦にします。決して当時の日本人を野蛮人視しているとは思えない著者が、エンターテイメント作品の味付けとして性奴隷を描くのは、中国人や韓国人がレイシズムから性奴隷を描くのとは別の意味で深刻です。日本軍のレイプ魔ぶりはそれほどまでに浸透しているのです。

ここまで定着してしまったイメージはそう簡単には拭えません。レイプ魔の烙印を補強するには1つの事例で事足りるのに対し、反証するには10の事例が必要です。20数年かけて世界中に浸透した確証バイアスを覆すには、20年以かかると覚悟すべきです。

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