2013年02月12日

クール・ジャパンとハリウッド

先日、経産省は「クール・ジャパン」に500億円の予算要求をすると報道されました。

「クール・ジャパン」推進に500億円 税金でクールな文化は作れるのか?

クール・ジャパンの根底にあるのは、広告的アプローチで国家ブランドを向上できるという発想ですが、この発想の誤謬は、「国家ブランド」概念の発案者であるサイモン・アンホルト氏によりたびたび指摘されており、また国家ブランディング政策の先駆けである「クール・ブリタニア」の失敗は、その何よりの証です。

しかしながら、国家ブランドを向上できるかどうかは別として、宣伝しなければ売れないのもまた事実です。日本のポップカルチャーを巨額な宣伝費をかけて売り込めば、費用対効果は別にして、それなりに売れるのは確実です。クール・ジャパンの目的が、とにかく日本のポップカルチャーを海外で売ること、ただそれのみにあるのであれば、それは不可能ではありません。

ただし、それを目的とするにはクール・ジャパンというやり方は効果的ではないし、またコンテンツを売り込むことによる日本全体への波及効果はほとんど期待できません。それはハリウッドを見ればわかります。

全興行収入の3分の2にあたる224億ドルをアメリカ国外で稼ぐハリウッドは、世界で最も成功しているコンテンツ産業です。しかしそのアプローチはクール・ジャパンとは真逆です。すなわち、星条旗を立ててアメリカ文化のクールさを訴えるのではなく、コンテンツの内容、売り方ともに、「クールUSA」どころか「脱USA」、無国籍であることを目指しています。

文化商品というのはその他の商品に比して感情的摩擦を生みやすく、へたをすると文化侵略ととらえられてしまうので、国籍を前面に押し出して売るのはタブーなのです。日本のコンテンツを海外に売りたいのであれば、コンテンツ産業に海外展開を念頭においた無国籍作品、良く言えばユニバーサルな価値観を持つ作品の制作を促し、そのうえで輸出ダンピングすればいいのであって、日本を前面に押し出して広告展開するのは邪道です。

先日、クールジャパンにも関わるAKBのメンバーがお泊りの反省として坊主にし、海外から怪訝な目で見られましたが、あのように日本国内でしか通用しないメディア・スタントはご法度です。海外でコンテンツを売る基本は、まずはコンテンツの国際化であり、クールジャパンではなく脱ジャパンなのです。

しかしそれでも、500億円もの宣伝費を投入すればさすがにある程度は売上も伸びるはずです。ただしその売上アップは、ハリウッドの例を見る限りその他の産業や国全体のイメージ向上に寄与しません。

ハリウッド映画は1920年代以降世界一の映画産業として世界に輸出されてきました。いくらハリウッド映画が脱USAを指向しているとはいえ、そこにはアメリカのライフスタイルが溢れています。世界中の人々がコーラを飲み、ハンバーガーを食べ、ジーンズをはいてロックを聴くようになったのには、ハリウッドの影響は否定できません。しかし、アメリカ文化とアメリカ製品全般へのイメージアップに貢献したのかといえばそうではありません。

アメリカ文化は底が浅く、アメリカ人は単細胞でアメリカ製品はセンスが悪いというのは、世界共通の認識です。あらゆるアメリカ的なものに反感を覚える反米主義は、ブッシュ時代に生まれたものではなく、20世紀の通低音です。

実はアメリカは1950年代から60年代初頭にかけて「クールUSA」を実行したことがあります。1953年に設立されたアメリカ情報局(USIA)は、ニューオリンズ・ジャズとハリウッド映画は世界の人々を親米にする武器だとの報告書をまとめ、CIAはさまざまな文化工作を実行しました。「文化爆撃」により冷戦に勝利できると考えたのです。

ところがアメリカの対外イメージは一向に上がらず、1960年代初頭にはソ連型経済の勝利は時間の問題という認識まで広がり、途上国の指導者たちは共産主義に惹かれ、先進国の若者たちは反米に走りました。やがてCIAの工作が暴露されるに至り、アメリカはクールUSA戦略を放棄したのでした。

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今日でもヨーロッパの破産危機に瀕する国々では、若者たちはジーンズをはいてロックを聴きながら反米を叫んでいます。アメリカの製品とサービスには、実は日本よりも進んだ面も多々あるにもかかわらず、世界中で実際よりも低く見られています。100年におよぶ強力無比なハリウッド映画の世界支配は、アメリカの映画産業を潤わせてはいるものの、アメリカのイメージ向上にはほとんど貢献していません。国のブランドを広告的手法で上昇させるのは不可能なのです。

クールジャパンは、一重にコンテンツ産業ーー実際には広告屋を水ぶくれさせるだけの施策であり、しかも、コンテンツの国際化をなおざりにしてエスニシティを前面に立てるそのやり方は、コンテンツの海外展開をする上で非効果的かつ邪道です。クール・ブリタニア以降急速にポップカルチャーの衰えたイギリスや、クールUSA時代に激しく反米に揺れた世界を見れば、むしろこれまでコツコツと築き上げた日本ブランドを瓦解させかねない危険な策なのです。

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