2013年02月15日

ジョブスの教え「お客様は神様です」

スティーブ・ジョブスは、生前も今も「イノベーション」の象徴のように崇拝されていますが、彼の築いたアップル帝国は決してイノベーションの力のみで巨大化したわけではありません。

アップルが失いつつあるもの

アップルで長年働いていたというこの記事の著者は、ジョブス時代のアップルは決してイノベーティブではなく、アップルを押し上げたのは「イノベーションよりもむしろ、その徹底した任務遂行能力」であると述べています。同意します。ジョブスアップルはイノベーションを売りにはしましたが、イメージほどイノベーティブではありません。強さは他にあるのです。

自分は最近、イノベーションという言葉に疑念を持ち始めています。もちろん、個人も企業もイノベーティブであろうとするのは良い事です。しかしイノベーションはその他の欠点をカバーしませんし、それだけで競争を勝ち抜けるわけでもありません。最近のイノベーション熱は、イノベーションをあたかも特効薬のように礼賛し、地味な努力から逃げる口実化しているように思えてなりません。

例えばアップルの場合、イノベーションという派手なネオンサインに隠れて、「顧客第一主義」という泥臭い企業姿勢はほとんど語られません。割高のブランド品を売り、客の苦情など歯牙にもかけないイメージのあるアップルですが、実はそうではありません。ジョブス時代のアップルは顧客サービスの改善に全力で取り組み、アメリカでは、客の声に真摯に耳を傾け、製品の不具合を改善につなげるメーカーの代表的存在と見られています。

日本でそう見られていないのは、ブランド・メーカーに対する偏見に加えて、外資の宿命もあると思います。一般的に外資は下級社員にはマニュアルワークしか求めず、そのため客対応は日本企業に比べて機械的になりがちです。実は外資的組織は、想定外の不具合などのシリアスな案件は「本部」で対応しており、外国人の無責任下級社員は面倒な案件はすぐに本部に投げるのですが、外資の日本人下級社員は日本的職業倫理から案件を上に投げるのを嫌がります。アップルも例外ではありません。そのため自分の限られた裁量で問題を解決しようとし、「融通の利かない外資」になりがちなのです。

またアップルの場合、小売店に対する姿勢も誤解を助長しています。日本の家電メーカーは大手小売チェーンに対して腰が低く、例えばヨドバシカメラあたりで製品を買えば、いざ不具合が出た時はヨドバシに相談すれば一発です。しかしアップルは小売店に対する立場が強く、そのため小売店経由の苦情は効果がなく、また値引きもしてくれません。小売店パワーに慣れた消費者からすれば、お高くとまったアップルと見えるのもしかたありません。

しかしアップルの顧客サービスは実際に優れたもので、アメリカではPCメーカーの中で常にダントツの1位に選ばれています。日本でも、何の権限もないのに自分の権限で客をあしらおうとする下級社員の壁さえ超えれば、あれほどの大企業であるにも係わらず、原則に囚われない、人間対人間の対応をしてもらえます。

PCは大小の不具合が出やすいものですから、多くのメーカーは、「消耗部品は壊れるときは壊れますから、そこまで責任とれません」とか「データの喪失はお客様の責任ですから」とか「保証書に書かれた通りの対応しかできません」などと、時に明確に、時に言外に責任を回避しようとしがちです。しかしアップルは根気良く客の話を聞き、場合によっては驚くほど柔軟に商品交換に応じたりします。

しかも客の機嫌をとって終わりではありません。自分の場合、不具合交渉からしばらく後に、アップルは3年前の製品までさかのぼり無償部品交換を発表しました。返品された製品をきちんと精査し、客の温情に甘えて誤魔化すのではなくきちんと責任をとり、よりよい製品開発のための参考としているのです。

もちろんアップルの顧客サービスは完璧ではありません。日本人下級スタッフの勘違いぶりはその代表で、その壁を越えるのは本当に大変です。アップルには、日本人社員の特性を理解し、下級社員の教育にも力を入れてほしいものです。しかしいずれにせよジョブスアップルの成功は、イノベーションと並んで、顧客サービスを抜きにしては語れないのです。

イノベーションという念仏ばかり唱えていると、日本企業全般が顧客サービスにおいてアメリカに教えを請う日も、案外すぐそこかもしれません。


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