2009年07月17日

ストライクか暴投か

先日行われた大リーグのオールスターゲームで、オバマ大統領が現職大統領として33年ぶりに始球式をして話題になりました。

【セントルイス(米ミズーリ州)14日時事】
今年で80回目を迎えた米大リーグのオールスター戦が14日、当地のブッシュ・スタジアムで行われた。始球式にはオバマ米大統領が「登板」。サウスポーから投じた球は、捕手役を務めた地元カージナルスのプホルス内野手のもとへ低めのノーバウンドで届き、観衆を沸かせた。現職大統領がオールスター戦の始球式を務めるのは、1976年のフォード氏以来で4人目。

オバマ大統領「ストライク」


日本でもアメリカでも、たいていこんな風に伝えられました。しかしこれは、見ていた人ならわかりますが、いろいろな点で事実と違います。

まずこの記事は、大統領が登場したときに浴びせられたブーイングについて完ぺきに無視しています。

あのブーイングは、「シカゴ育ちの大統領が日頃からファンと公言しているホワイトソックスのジャケットを着て出てきたことに対する気の利いたリアクション」と受け取っている人もいるかもしれませんが、それは考えにくいことです。ヤンキースのジャージを着て出てきたり、会場がシカゴのリグレーフィールド*だったらそれもありえますが、あの場でそれはピンときません。

セントルイスのあるミズーリ州は、共和党が強い「レッドステート」で、巨額の財政赤字を作り、なのに失業率は改善するどころか悪化し、ここ1ヶ月で支持率を10パーセント近く落としている、政治家としてのオバマ大統領に向けられたブーイングと見るのが妥当なのです。

しかし日米のほとんどのマスコミはこのことを無視しました。ブッシュ時代には、大統領の始球式でブーイングについて触れるのは常識だったのですが。

またほとんどのマスコミ報道は、オバマ氏の投球について事実を歪曲しています。

大統領が投げた球はホームプレートまで届かず、ホームプレートの前で構えていたプホルスはさらに前に出て、結局ショートバウンドでキャッチしました*。だから「サウスポーから投じた球は、捕手役を務めた地元カージナルスのプホルス内野手のもとへ低めのノーバウンドで届き、観衆を沸かせた」というのは作り話です。

「お祭りなんだから、細かいことを指摘するのは野暮」と考える人もいるでしょう。しかしイメージというのはこういうところから作られ、抗えない空気を作っていくのです。

例えばこの出来事は、同じ事実を材料にして、まるで違うように書くこともできます。

ここ1ヶ月で支持率が10パーセントも急降下し、いよいよメッキが剥がれてきた感のあるオバマ大統領。仕事内容でだめならイメージでと、33年ぶりとなるオールスター戦の始球式をつとめて人気回復を狙ったが、ますます馬脚を現しただけに終わってしまった。日頃からファンであると公言しているホワイトソックスのジャケットに身を包んで登場した大統領を出迎えたのは、歓声をはるかに上回るブーイング。さらにマウンドから投げるその投球フォームは、大統領の魅力のひとつであるはずのスポーティさとはほど遠い“女の子投げ”で、ふらふらとした球はホームプレートにも届かず、不名誉にもワンバウンドしてしまった。さらに試合中に流されたインタビューでは、愛用のプロンプターを持参し忘れたためか、愛しているはずのホワイトソックスの旧本拠地を「コミンスキー・フィールド」と呼ぶ、ファンならあり得ない間違いを犯す暴投ぶり。地元でのオールスターを楽しみにしていたというブラッドリー・Lさんは、「野球に興味がないなら余計なことをしなければいいのに。人気取りのために野球が利用されて悲しい」と肩を落としていた。このイベントのためにエアフォースワンでワシントンとセントルイスを往復した大統領は、はたしてどれほどのCO2をまき散らしたのだろうか?

オバマ大統領 また暴投


ゲンダイを意識して書いてみましたが、こういう報道を連日投下しているとどうなるかという見本は、太平洋のこちら側にあります。

漢字の読み違い、ホテルのバー通い、つたない英語と、やることなすことマイナスの視点から取り上げられた麻生首相は、いつの間にやら史上最低の首相のレッテルを貼られてしまいました。

このようにマスコミというのは、味方につければメシアになれるし、敵にまわせばアスホールにされる恐ろしい存在なのです。だから政治家はますますマスコミの方を向き、中身を磨くよりもマスコミと仲良くなろうとし、そうすることでマスコミに主導権を渡し、ますます立場を弱くするという悪循環に陥ります。

こんなことは100年前から行われてきたことではありますが、時代の変化で新聞もテレビも業績が悪化したことで、最近のマスコミはより節操なく権力を誇示するようになりました。

見方を変えればマスコミの断末魔なのですが、うまくソフトランディングできればともかく、ハードランディングすれば大変なことになります。そしてソフトランディングするという保証はどこにもなく、ぼくたち一般市民は、飛行中に異常に見舞われた旅客機の乗客のように、ただじっと見守るしかないのです。

*同じシカゴに本拠地を持つホワイトソックスとカブスのファンは、端から見ると異様なほど敵対しています。カブスの本拠地であるリグレーフィールドにホワイトソックスのジャージを着て登場すれば、カブスファンは間違いなくブーイングを浴びせるはずです。

*ロイターの映像ニュースはこの点について客観的で、大統領が歓声とヤジに出迎えられたこと、投球がホームに届かなかったことを伝えています。



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この記事へのコメント
次の総選挙でおそらく民主党が政権を取るんだろうけど、鳩山さんでたぶん史上最も期待されずに就任する総理大臣になるんだろうな。。。(対抗できるのは宇野さんくらい?)

それこそ、期待度については最初の頃の麻生さんやオバマさんの比じゃないわけで。。。就任後を想像すると、さぞかし恐ろしいバッシングが待っているのではと思うわけでして。。。(ただ、これ以上低い期待度もないわけで、あとは上がる一方とも考えられないこともないのですが)
Posted by JFK at 2009年07月17日 21:00
NHKの夜7時のニュースではブーイングも合わせて報道してました。それ以外ではブーイングなし、熱烈歓迎ムードという内容した。鳩山民主党を応援してる兼ね合いでオバマさんも好意的に写してるのかなーと思いましたが、事実と違う情報で世論誘導するマスコミ。なんとかなりませんかねぇ。
Posted by 流転 at 2009年07月17日 21:14
確かに断末魔なのかも・・・

雑談Aいつまでたっても慣れない総理番のお仕事
2009/01/22 18:07
http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/882883/
>麻生首相のバッシング報道がいちばんさかんだったとき、
某新聞社の記者がこんなセリフをいっていた。
「ここまできても麻生政権を解散に追い込めない今の政治部記者はなさけない。
昔の政治部記者なら、今頃麻生政権は解散になっていた」。
報道の力によって支持率を上下させたり、内閣を解散させたり、
すきな政治家を首相に押し上げたりやめさせたりできる、
そういう影響力の行使こそ、政治部記者の醍醐味、といいたげである。

あれから半年、やっと念願叶って解散?
Posted by ミツ at 2009年07月17日 21:31
マスコミのハードランディングって何ですか?
Posted by タカダ at 2009年07月17日 22:40
民主党候補に「特異現象」 「マスコミ出身者」20人超える
http://www.j-cast.com/2009/07/15045431.html

「マスコミと仲良く」を通り越して、政治家がマスコミそのものになりつつあるのかもしれません。
Posted by 権兵衛 at 2009年07月17日 22:44
マスコミのハードランディング=倒産???

ソフトランディング・・・徐々に力を失う。
Posted by a at 2009年07月17日 22:47
まあゲンダイはある意味「健全」に、就任3〜4日後には今の記事の「麻生」「与謝野」「舛添」とかの主語を「鳩山」「小沢」「菅」に見事に入れ替えた記事量産してると思います。
それでも政権入りする(?)みずほには甘い気はしますがw
Posted by 鈴木高次 at 2009年07月18日 03:03
マスコミのハードランディング≒扇動の破壊的暴走→切れた大衆による吊し上げ放火鈴木商店のような結末
ソフトランディング≒影響力の後退・規模の縮小・業界縛りの無効化

そんな感じじゃね?
Posted by ト at 2009年07月18日 03:09
少し前のエントリにフランス革命を引き合いに出した新聞のことが書かれていましたが、今のマスコミの状況を見ると“デュシェーヌ親父”の主宰者であるエベールとその一派を思い起こさずにはいられません。エベールは結局断頭台の露となりましたが、現代日本のマスコミ人たちの運命はいかに…
Posted by 津 at 2009年07月18日 19:34
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