ケインズとハイエクが夜の街にくりだしてお互いの説をぶつけ合うラップですが、すごくわかりやすいしおもしろい。まだ公開から1週間もたっていませんが、すでに20万ビューを越えています。日本の財務相は、マストシーです。
でもビデオそれ自体よりおもしろいのは、制作の裏話です。
男性向けケーブルチャンネルのスパイクTVで働くビデオプロデューサーのジョン・パポラさんは、経済に興味を持っていて、日頃から経済について発信したいと思っていました。でもしょせんは素人なので、言えることは限られています。そこで、ビデオ制作という自分の能力を生かせば、誰にも負けない発信ができると思い立ちます。
早速彼は、以前からネットで意見を聞いて尊敬していた、経済学者のラス・ロバーツさんに連絡を取ります。するとロバーツさんは乗り気で、ロバーツさんの提案でラップにしようということになり、あとはトントン拍子。誰にでもわかり、なおかつ噛み応えのある、ハイクオリティのミュージックビデオができあがりました。
パポラさんのオフィスで、ロバートさんに完成したビデオを見せていると、ミュージシャンの Ke$ha が通りかかり、ロバーツさんとケシャが一緒にプレビュー。ケシャが「これは本物。いいラップね」と太鼓判を押すと、ロバーツさんもケシャの「Tik Tok」のビデオを見て、「このビデオは一見ケインズ的だけど、本質はハイエク的だ」とか述べて、まあとにかくそんな感じです。
エッチなチャンネルのプロデューサーと、高名な経済学者と、ケインズとハイエクと、アイドルというまったくバラバラな要素が融合して、これだけ高品質なビデオができてしまうというのは、いかにもネット時代らしい現象です。このビデオは、ケインズ対ハイエクという問いに対する答えを、その制作スタイルにより示しているようにも思います。
英語と経済の両方を学べるこのビデオの歌詞は、こちらのページで見られます。MP3もダウンロードできます。また、ケインズとハイエクの思想については、こちらのページにまとめられています。
学者の発信の仕方にも問題がありますが、専門知を媒介する、まさに「メディア」の手法も「わかりやすい=レベルを落とす」というのばかり。
ドイツやアメリカはケーブルテレビが普及していて、専門チャンネルは日本の民放と客層も違うからだろう、と思っていましたが、スパイクTVでこういうことができるのなら、民放にできないはずはないんですが。
それぞれの専門家が協働することで達成されるこういう仕事が日本に滅多に現れないのは、俳優にしろ歌手にしろ、まともな専門家に光を当てずにテレビタレントばかりを重用する姿勢からもたらされた帰結なのかな、という気がします。
コックさん
キッシンジャー博士に似ている感じ、
はやぐい。