それは、きのうブロゴスで読んだこの記事についてです。
東京23区で唯一放射能汚染プールを子どもに清掃させた江戸川区-子どもの被曝回避は世界の常識なのに
記事ランキングのトップにあった記事なので、なんとはなしに読んでみたのです。するとこの記事の中には、非常に衝撃的な記述があり、多くの読者がこの部分をリツイートしていました。
冒頭で紹介したNHKスペシャルの後半で、チェルノブイリ事故から25年も経過した今でも放射能汚染という重い荷を背負い続けているベラルーシの取り組みが紹介されていました。ベラルーシでは、今でも国家予算の2割を放射能汚染対策に使っているとのこと。とりわけ、放射能汚染から子どもを守るための対策がはかられていて、すべての学校で、食べ物の放射線量をはかることが可能になっていたり、すべての病院、診療所で、無料で被曝検査が実施され、もし病気になった場合でも生涯無料で治療が受けられるとのこと。
事故から25年経過した今でも、国家予算の2割を割いているとは、大変なことです。聞き流しておけません。そこでググッてみました。ぼくはベラルーシ語はわかりませんが、これほどのことならば、英語の資料もたくさんあるはずです。
ベラルーシ(Belarus)、原子力(Nuclear)、チェルノブイリ(Chernobyl)、予算(Budget)。これだけのキーワードを打ち込むと、案の定かなりの記事がでてきました。いろいろ問題のあるネットですが、やはりネットはすごい。今さら口にだすのも恥ずかしいセリフですが。
さて、その結果わかったのは、「今でも国家予算の2割を放射能汚染対策に使っている」という言葉の信憑性は薄いということです。
チェルノブイリはウクライナにありますが、もっとも甚大な被害を被ったのは、チェルノブイリのすぐ北に位置するベラルーシでした。そしてソ連崩壊の1991年、分離独立したベラルーシ共和国の原発事故対策費が国家予算の2割を超えた(22.3パーセント)のは、事故の規模を語るうえであちこちで引用されている、有名なエピソードのようです。しかし複数のソースによれば、毎年予算は削減され、90年代中頃には予算の10パーセント、2002年には6パーセント、そして2008年には4パーセント程度にまで削られているようです。だいたい、決して裕福とはいえないベラルーシで事故対策にとりくむ政府機関と、関心の低下とともに資金難にあえぐボランティア団体の苦悩については、すでに10年以上前からたびたび報告されており、Nスペで描かれたという、国をあげての徹底した対策と大いに矛盾します。
チョチョッとググってここまで確認したとき、ぼくは、「事故から25年後の今でも国家予算の2割」という衝撃的なデータは、ブロゴスの当該記事を書いた筆者による勘違いに違いないと思いました。そこで今度は、「NHKスペシャル」「シリーズ原発危機」「広がる放射能汚染」でググってみると…
なんと番組を見た極めて多くの人々が、「事故から25年後の今でも国家予算の2割」という部分に衝撃を受けているではありませんか!
かつてテレビ番組制作に人生を捧げた身からして、これは単なる製作者のケアレスミスでないと断言できます。「事故から25年後の今でも国家予算の2割」というのは、誰の頭にもスッと入って行きやすいシンプルさと衝撃性を併せ持つ、製作者からすればヨダレが出るほどにおいしいデータです。どんなに鈍感なテレビマンでも、こういうデータに無頓着でいられるわけはありません。ある団体か識者が、物事を単純化して「ベラルーシは事故対策に国家予算の2割をかけている」と述べたのを、その怪しさを承知の上で、番組の趣旨に合わせて、まるで今でもそうしているかのように描写したに違いないのです。
何のためにこんな誤解を生む描写をしたのでしょうか?反原発の意図からかもしれませんし、その反対かもしれませんし、そのどちらでもないかもしれません。製作者の政治的な意図をいくら詮索したところで、推測の域を出ません。しかし確実なのは、視聴者に衝撃を与えて、番組に食いつかせるためであったということです。「事故から25年の今でも、ベラルーシの事故対策は終っていない」という地味な情報は、「事故から25年の今でも、国家予算の2割をかけている」という、具体的かつ非日常的なサブ情報により、ただごとではない事件に姿を変えるのです。これをセンセーショナリズムと言います。
まだまだNHKの報道に大きな信頼をおいている人が多い中、原発問題のような微妙な問題にセンセーショナリズムを持ち込むのは、とても罪深いことです。牧羊犬に追い立てられて右往左往する無垢な子羊たちが不憫でなりません。
ところで、ブロゴスの当該記事の筆者は、ベラルーシの取り組みを描いたNHKの番組を見た感想として、「人類は原発とは共存できない」と述べて記事を締めています。物事すべてが歪められて単純化され、リニアに展開する、"World according to NHK" に従うと、そういう感想しか持てないのかもしれません。しかし現実の世界はもっと複雑です。
日本の原発事故のニュースが世界を駆け巡る中、この春ベラルーシは、新たな原発建設に向けて、ロシアの協力を得ることで合意しました。ロシアからの天然ガスにエネルギーを全面依存しているベラルーシは、数年前から原発建設計画を進めていたのですが、ついに具体的に動き出したのです。
秘密主義の独裁政権で、なおかつチェルノブイリ事故以前から領内に一基の原発もなく、原発の建設と保守管理のノウハウを持たないベラルーシの原発計画に、周辺国は大いに憂慮してきました。しかしよりによって今、というか今だからこそ、この史上最大の原発事故で最大の被害を被った国は、“原発との共存”に大きな一歩を踏み出したのです。
今後ベラルーシに続々建設される原発の立地は西部国境沿いで、発電量はベラルーシ国内で必要とする量を超えています。安全面だけでなく、採算面からも疑問視されてきたベラルーシの原発計画は、「脱原発」を決めたドイツとその仲間たちという、電力売買の顧客候補の登場で、極めて魅力的な投資物件へと変貌したのです。
当該番組見ましたが、日本の放射能汚染についてはよくまとめていたものの、後半の国家予算の二割という話は少々眉唾に感じていましたが、やはりですか。
このブログ、経済問題については批判的なコメントもあるようですが、マスメディアについてはとても参考になるので、今後も続けてほしいです。
いつも考えながら読ませていただいてました
できればまたブログ活動を続けていただきたいです
私にとればこのコメントの方が衝撃です。
どうか続けてください。
日本にいるとなかなか気付けない、知らされない世界の情報を発信してください。
時々で良いので、私の目から鱗を引っ剥がすためにも。
ぜひ続けてもらいたいです。