2011年11月16日

オバマのギャンブル

アメリカの民主党というのは「リベラル」の看板をあげた政党ですから、リベラルという言葉の持つ開かれたイメージから誤解している人も多いかもしれませんが、実はきわめて内向きで保護主義的な政党です。自由貿易フェチの共和党が各国と自由貿易協定を結ぼうとするたびに、弱者保護や環境保護を表向きの理由として、その実労組の既得権を守るためにブロックしてきた実績を持ちます。

オバマさんという人はその中でも筋金入りの保護主義者で、自由貿易の意義なんて露ほども理解しちゃいません。彼が自由貿易を讃えるとき、それは単に「アメリカの労組に都合のいい自由貿易」であって、やはり民主党であるクリントン政権時にさかんに喧伝された「グローバリゼーション」と同様に、アメリカン・スタンダードの押し付けでしかありません。

TPPというのは、そんなオバマ民主党政権がプッシュする協定です。嫌な感じです。ジャイアニズムもいい加減にしろと言いたくなります。が、ことはそう単純ではありません。

TPPというのはブッシュ共和党政権のときに動き出したアイディアで、いかにも共和党らしい自由貿易バンザイ、「産業空洞化?何が悪いの?」的な構想です。もちろん米民主党は反対でした。オバマさんも、アメリカの製造業を殺す売国的協定と厳しく批判し、政権についてからは、TPPをアメリカン・スタンダード協定に魔改造して仕切りなおす気満々で、支持者からもそれを期待されていました。

ところが、現在進められているTPPはブッシュ時代となんら変わらないシロモノです。これがどれほど奇妙なことかというと、TPP批判で名をあげた中野剛志さんが、反対派をまとめて政党を立ち上げて政権をとり、その挙句TPPに参加してガッツポーズをするような、それくらい変なことなのです。

だからオバマ政権は、各国との自由貿易協定を、非常にひっそりと進めています。韓国とのFTA締結も、日本を筆頭にTPP協議参加申込国が殺到したハワイでの出来事も、これが共和党政権なら超絶アピールしたはずですが、ぜんぜんプロパガンダしないので、アメリカのメディアはほとんど伝えません。おかげでアメリカ人は「TPP?Tea Party Patriotsのこと?」なんて始末です。そろそろ大統領選も近いというのに、党の信条に反し、支持者を減らしかねない行為にコソコソと奔走しているわけです。

その理由は、繰り返すように中国対策です。1990年代の半ばまでは、アメリカ製造業衰退の元凶として、米民主党は日本を叩くのを仕事としてきました。ところが2000年代に入ると次第にターゲットを中国に移し、今や米民主党の外交政策は「人民元の為替操作をやめさせろ」に尽きます。彼らの眼中にもはや日本はありません。

民主党の中国叩きに対し、ブッシュ前大統領は「為替操作して損をするのは中国の方だから」などとフリートレーダーまるだしの態度で受け流してきたものですが、オバマさんはそうは考えていません。最初は紳士的に、徐々に語気を荒らげて、人民元の大幅な切り上げを要求してきました。

しかし中国は米民主党の要求に屈せず、それどころか固定相場のまま人民元の基軸通貨化に向けて動き出す始末。党の信条を実現するために、そして大統領選に向けて得点を稼ぐために、もうオバマさんに後はありません。TPPとは、そんなオバマさんの大勝負に向けた伏線のひとつ、より大きな勝利を得るためにしぶしぶ払う犠牲のようなものなのです。

ペンタゴンは、中国を主敵ととらえた「エア・シー・バトル」コンセプトの発表準備をしており(Battle Plans Tempt Chill in U.S.-China Relations)、またハワイでのAPECを終えたオバマさんはオーストラリアに飛び、米海兵隊のオーストラリア駐留を発表する予定です(Obama visit signals threat of China)。南シナ海における中国軍の動きを牽制するためです。

経済的、軍事的に中国に圧力を加えつつ、勝負の山場は為替操作国認定です。今行われているオバマ大統領のアジア遠征後、米財務省は定期報告書を出すのですが、そこで中国が為替操作国に認定されると、議会の承認を得たうえで、中国からの輸入をブロックできるようになります。

そんなことになれば、中国経済は終わりです。しかしiPhoneの出荷は止まるし、アメリカにも日本にも大打撃です。だから議会で多数派の共和党は反対の姿勢を明確にしていますし、中国もそれがわかっているから、これまで余裕で構えてきました。しかし最近では共和党の中にも、次期大統領選の有力候補であるロムニーさんのように「チート国からの輸入を許してはならない」と主張する人も増えてきていますし、あとひと押しーーー例えばアメリカの威嚇に憤怒した中国の愛国派がアメリカの世論を怒らせる行動をとるなどすれば、為替操作国認定はいよいよ現実味を帯びてきます。

そうなればオバマさんの大勝利で、中国の指導層がよほどのバカでない限り、人民元は変動相場制への移行を余儀なくされます。中国が大日本帝国なみのバカなら、世界を巻き込む勝ち目のない経済戦争に突入することにはなりますが。

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この記事へのコメント
米中対立って演技というかガス抜きにしか思えないんですよね。アメリカ政治の中心であるロックフェラーやキッシンジャーは親中です。

軍事費を得るために中国を脅威にしているだけではないでしょうか?

オバマや議会が中国に強硬でも国務省や国防総省、CIA、財務省、ホワイトハウスにはロックフェラーから送り込まれた高官がいますからね。
Posted by モルガン at 2011年11月17日 00:35
いや、貿易や経済戦争の話しじゃ無いってからに。
Posted by アル中さん at 2011年11月17日 06:07
日本の貿易額(2010)

対中国 総額約26兆円
対米国 総額約16兆円

中国とアメリカという二択問題にされちゃったら日本はアメリカをとるでしょうね。でもどっちについても結局最後は日本が負ける気がします。
アメリカは軍事的には同盟を結ぶ仲でも、肝心の経済ではむしろ日本市場を狙っている側ですから。
それにしてもこの手の二元論を見るたびに思うのですが、日本には第三の選択肢は本当にないのでしょうか?
私には探す努力すらしていない気がしてならないのですが。
Posted by white at 2011年11月17日 08:46
で、アメリカに製造業が復活して貿易収支も改善し、財政も安定してデフォルトが防げる・ ・・
なんてこと、あるわけないでしょ。

とっくにポイントオブノーリターンは過ぎてるんですよ。アメリカ帝国が生き延びるためには、日本の富を吸い取る以外に方法はありません。

その点に関しての認識は、もはや民主も共和も区別はありません。
Posted by 昭和青年 at 2011年11月18日 18:37
まさかこのブログ、複数の人間で書いていて、分析力のある人間が抜けちゃった、なんてことないですよね。
Posted by 昭和青年 at 2011年11月19日 07:29
日本の富を吸い取ればアメリカ帝国が生き延びられると? これから人口も減って下り坂しか見えない国から? ずいぶん自己(同一視してるっぽいですね)評価が過大ですね。もうすこし、アメリカから日本がどう見られているか調べてみては。
富を吸い取るなら、まだこれから伸びるであろう、日本より経済規模の大きい国があるでしょうに。

今回の充電期間中に常連が入れ替わってコメントのレベルが下がった気がする。
Posted by HG at 2011年11月19日 12:25
今のアメリカの製造業って車等の従来型の産業はGM等の海外生産比率を調べればわかるようにほとんどアメリカ国内で作っていないのです。
日本からアメリカに車を輸出する場合、2.5%の関税がかかります。それが無くなれば、多少は輸出しやすくなるでしょう。しかし、アメリカでの現地生産比率等を考えると、それにどれだけの意味があるのでしょうね?

それに巷で売れているiPhoneとかアンドロイド携帯(アメ製)なんて中国で作っているでしょ。

そういった従来型の製造業はアメで作ると競争力が無い物しか作れないから、そんな物よりオバマ当選の原動力となった部分の輸出を強化しようと言うのがアメリカのTPPの狙いです。

具体的に言うと、金融・保険・医療・特許・サービス・農業・公共事業等となります。医療に関してはアメリカが特許で押さえている高い医薬品を売り、また特許で押さえている高い手術法を輸出する。そうして、アメリカにお金を落とさせて、アメリカのように盲腸の手術に240万円かかり破産する人が出てくるようになるでしょう。
金融・保険は言うまでも無いですね。金融はアメリカのでたらめにしか見えない方法で日本の富を吸い上げるのに使い、保険は日本の簡保や共済を狙っています。

農業以外にもかなり危ない事が含まれているのが今回のTPPです。
Posted by もけもけ at 2011年11月19日 18:54
フローとストック。これを理解できていない人が
いて可笑しいです。日本は巨大なストックを内
外に築いており、むしろ海外日本資産の巨大さ
が注目されております。また、衰えたりとはいえ
日本は未だにその資産を積み上げており、フロー
も馬鹿に出来ない内容です。
豚は太らせてから食え という言葉を知りませんか?

吸いあげれば生き「延び」ますね。
Posted by R at 2011年11月20日 10:02
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