作品のテーマは、「自我の世紀」というより、「『無意識』の世紀」と言い換えた方がピンとくるかもしれません。無意識という概念は、20世紀初頭に精神分析学の創始者フロイトにより「発見」されたのですが、これを広告の世界に応用し、大衆の無意識に働きかけることで世の中をコントロールしようとしてきた企業と政治の姿を、古い映像とインタビューで描き出した壮大な作品です。
この作品を見て初めて知りましたが、そもそもパブリック・リレーションズ(PR)という言葉は、フロイトの甥であるエドワード・バーネイズという人物による造語なのだそうです。20世紀の広告術は大衆洗脳術としてスタートし、現代でもその本質は変わらないし、変わりようもないということをあらためて痛感させられるエピソードです。
この作品が作られたのは2002年で、まだまだインターネットの影響力は限定されていました。当時はぼくも、ネットによりマスメディアの存在が脅かされるなど絵空事と感じていました。しかし現在、20世紀型洗脳術を可能にしたマスメディアというシステムは音を立てて崩れつつあり、大衆の無意識をめぐる権力ゲームのあり方は根底から変化しつつあります。そんな今だからこそ、パブリック・リレーションズという思想と行為を外在化して見つめ直したこの作品は、より強い実感をともない人々にアピールするのかもしれません。
この作品は、いろいろな動画サイトに複数アップされていますが、個人的におすすめなのは、英語字幕入りのものです。ある程度英語ができる人なら、英語の教材として活用しつつ、有益な情報を得ることができます。
英語がダメという人は、日本語訳のバージョンもあります。こちらは現在のところ第3部までしか作られていませんが、第4部を見なくても尻切れトンボ感はないので、十分に見る価値はあります。
ぼくは、この作品の作者であるアダム・カーティスの世界観を全的に肯定する者ではありませんが、自分の頭の中にある何者かにより植えつけられた欲望を掃除し、また自分の頭の中に欲望の種を植えつけようとする何者かの行為に警戒するようになるという点で、とても効果のあるワクチンのような作品であると思います。
後ほど私のブログでも紹介させてください。
昨日第1部だけ観たのですが、現代においても思い当たる部分が多すぎて複雑な気持ちになります。
商業活動や政治に「PR」を取り入れたのは天才的だと思いますが、その結果、人間を幸せにしたかどうかは非常に懐疑的ですね。