2011年11月30日

新自由主義一択の時代

大阪のダブル選挙は橋下一派の圧勝でした。橋下さんをポピュリストと呼ぶ人もいますが、彼はポピュリズムとは対極に位置する信念の政治家だと思います。彼の信念とは、民間にできることは民間に任せ、政府はできるだけコンパクトにするという新自由主義です。

だから、国家による統制を好ましいと考える国家主義者や社会主義者は、彼のことを蛇蝎のごとく嫌います。新自由主義の誤謬は明白であり、アメリカでもヨーロッパでも、すでに時代遅れと見られているなどと主張して、彼のような考えを持つ人を貶めようとします。

しかしそうなのでしょうか?

なるほどリーマン・ショック後、アメリカでは社会主義風なオバマ政権が誕生しました。もともと社会主義的傾向の強いヨーロッパの各首脳は、競うように規制強化を叫びました。そして日本では、「市場原理主義をぶっとばせ!」を合言葉に民主党政権が誕生しました。あのとき、確かに世界は新自由主義を捨てたように見えました。

それで結局どうなったでしょうか?オバマ政権は、マネーゲーマーのカネを持たざる者に分配するという掛け声ももなしく、前任者顔負けでマネーゲーマーたちを保護しまくり、また国家主導でグリーン・エネルギー産業を育成するというニューディール政策は無残に失敗し、自由貿易で企業を強くするという新自由主義路線に希望を託すありさまです。ヨーロッパでは、各国とも債務危機で公共事業の拡大などできるはずもなく、逆に社会保障費をガリガリと削り、その挙句先日行われたスペインの総選挙のように、規制緩和を訴える保守政党が大躍進しています。

要するにこういうことです。金融危機の勃発後、新自由主義をよろしく思わない勢力は、時代の追い風を得て社会主義的な政策を実行しようとしましたが、いざ責任ある地位についてみると、それは危機をより悪化させる自殺行為でしかないことを認めざるを得ませんでした。そしてこの危機を脱するには、行き過ぎた市場主義を是正するどころか、市場主義を推進するしかないという現実の前に、膝を屈するに至ったのです。

ですから、我々が持つべき正しい認識は、「新自由主義は終わった」ではありません。「新自由主義しかない」ということなのです。勘違いしないでほしいのですが、これは新自由主義の勝利ということではありません。現況を見ればわかるように、新自由主義は問題だらけです。しかし、それに代わるオプションがないのです。そしてそれこそが現代の抱えた最大の問題のひとつなのです。

とんでもない額の大金をちょちょっと稼ぎ、失敗しても税金で助けてもらえる一部の特権層がいる反面、働きたいのに仕事がなく、自己責任の一言で捨て置かれる人がゴロゴロいるというのは、なにかがおかしい。おかしいけれど、それを解決する既存の手法もなければ、解決のヒントとなる思想もないので、ただおかしいと訴えるしかない。オキュパイ・ウォールストリートなどはその象徴で、建設的なアイディアを示せないから、ただ駄々をこねているようにしか見えず、というか実際駄々をこねているだけで、おかげで未来を変えるムーブメントになりようがありません。

この「なにかがおかしい」という感覚にぴったりと合った言葉が見つかったとき、21世紀にふさわしい新しい潮流はそこから始まるはずです。古めかしいサヨク思想や国家主義思想にしがみついて、新自由主義は周回遅れなどといくら叫んだところで、新自由主義は滅びません。新自由主義が憎ければ、新自由主義一択の現状を認めた上で、一刻も早く言葉を見つけることです。

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この記事へのコメント
はじめまして。いつも楽しく読ませてもらっています。

橋下氏の圧勝は地元でも予想されていたことでしたが、実際そのとおりになりましたね。選挙の前後から、氏の背景や支持団体のうさんくささが、ネットや週刊誌上でちらほらと噂されていたようでしたが、私のような一般の勤め人には、政治の裏話や陰謀論など理解できるわけもなく(見聞きする分には全然楽しいのですが・・)、ただ氏の謳う「大阪の二重行政を廃止し、効率のよい府政・市政にする」というスローガンに賛成し、投票させてもらった次第です。要するに「無駄な役人を減らし、財政を健全化する」ことなんだと。

氏の目指す都構想がどういう方向に向かうにせよ、またそれがまったく絵に描いた餅だったとしても、ブログ主さんのおっしゃる通り、それに代わる新しい構想が無い限り、大阪府市民は橋下氏に期待を託すしかないんじゃないかと思います。そしてそれがかつての小泉首相のように、後継者に人を得ないまま、改革途上で任期を終える形になったとしても、少なくとも新しい時代の扉を開いた第一人者として、氏の功績は少しも翳ることはないのだろうとも思います。

大阪の明るい未来に期待します。
Posted by ブラックボックス at 2011年11月30日 14:40
オバマが新自由主義に回帰したのはそれしかなかったのかもしれません。しかしアメリカの政治は大統領が変わっても閣僚や次官等上級職に送り込まれるスタッフはキッシンジャーやブレジンスキー系列の人達であり、これが変わらないと政策は変わらないと思います。

政府に送り込まれる人材はシンクタンクなどを得ますが、そのシンクタンクを援助してるのが財閥系の人達です。世界政府を目指す財閥系の人達に気に入られる政策を作った人が政府に送り込まれます。結局弱肉強食の新自由主義になるのです。
Posted by モルガン at 2011年11月30日 15:35
まったく、「○○主義」なんて「言葉」はどうでもいいのですよ。
それで「一刻も早く言葉を見つけることです」ですか?「言葉」を見つけてどうするのです? 実行する能力があるのですか?無いでしょ? 「政権交代」という言葉を見つけて騒いだ結果がこれですよ? この手のブログを書く評論家もどきの人は皆中身の無い言葉だけで何とかなると本当に思っているのですかね?思っているのでしょうね。マスコミと同じですね。「温故知新」という「言葉」はご存知ですか?1930年代の昭和恐慌と呼ばれた時代に、日本がどのような政策を「行った」のか、くらいは調べましょうよ。目の前にコンピューターがあるのでしょ? 問題が「仕事が無い」のならば、解決策は「言葉」じゃないでしょ? 「言葉」で何とかなったなんて事は無いのですよ。そのように「記録」する人はいつの時代もいるのでしょうけれどね。震災が「言葉」でなんとかなるのですか?ならないでしょ?そう言う事ですよ。頭の中の世界じゃなくて、目の前の現実を見なさいよ。
Posted by 暇人 at 2011年12月01日 10:35
> 暇人

まるで226事件を起こした将校みたい(w

必要なのは多くの人々を説得し納得させる言葉だと歴史で何度も証明されているのにねえ。
Posted by ho at 2011年12月01日 11:41
はじめまして。
>新自由主義一択の時代
というご発言は、皮肉を超えて、もうやぶれかぶれな感じがいたします。
橋下氏の当選から思うことは、大阪の民意が行政コストを最小にすることに本当にあるなら、いっそ大阪府・大阪市の行政は解散して、一般民衆の自治にまかせれば良いのではないかと。警察は自警団か民間警備組織でとかとか。ある意味真の直接民主主義が実現できるかもしれませんね、などとアナーキーなことを言ったら、それはそれでやっぱり破れかぶれな発言なのでしょう。
それはさておき、ウォール街のデモについてですが、人間マイクロフォンを通じて話すスラヴォイ・ジジェクの主張、「コモンズを取り返せ」はやっぱり正しいような感じがします。新自由主義は暴走した資本主義であることは確かだと思うので、バランスを取り戻す「何か」が必要なことは確かだと思います。おっしゃるとおり、その「何か」がよく分からない。いや、分かっているけど実行できないだけなのかな??
Posted by H.S. at 2011年12月02日 16:17
ただ、アメリカなんて限度越えてますからね。「市民」層を育成する経済基盤も既に崩壊しかけてます。

人種・宗教・文化を越えたレベルで人間はうまく生きて行けない。越えたレベルは将来の課題であって、それまではうまく棲み分けて、ジリジリと人類全体を向上させていくしかない。

上記のことをうまく言葉にする(理論化する)必要性は痛切に感じます。
Posted by 昭和青年 at 2011年12月03日 10:59
結局その国の体質というのは安易には変えられないと言う当たり前の事ですね。

「新自由主義しかない」のは元々限度を超えた新自由主義だったアメリカだからです。日本までアメリカのような限度を超えた新自由主義になる必要はありません。
Posted by もけもけ at 2011年12月04日 08:58
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