2012年01月03日

NHK紅白のガガの「翻訳ミス」について

大晦日の紅白に出たレディ・ガガの歌詞の翻訳字幕について、「あれは政治的意図からなされた誤訳である」と主張する人が現れました。

NHK紅白・レディー・ガガの歌詞字幕について

一方この主張を受けて、「あれはただの程度の低い訳だ」と言う人も現れました。

NHKのレディ・ガガの字幕翻訳は隠蔽の意図とか以前の問題かな?

NHKの内幕を知るぼくから言わせると、まず最初の、意図的な誤訳説ですが、考えすぎだと思います。

意図的に誤訳することはあります。過去にぼく自身何度かしているので間違いありません(国民のみなさま申し訳ありませんでした。今は深く反省しております)。ちなみに、そのほとんどの場合は、政治的な意図というよりは、全体のストーリーに合わせて都合よく内容を曲げるというものです。しかし、ガガのこの歌に関していえば、NHKが無理しててまで隠したり曲げたりする動機を見いだせません。

NHKに限らず、テレビ局にはある種の風俗を自主規制しようとする空気があるのは確かです。たとえばかつてぼくはNHKで、イギリスのサブカル系のシリーズものを翻訳、制作したことがあるのですが、タトゥーとピアスに関する回はまるまる1本落とされました。ただ落とされただけでなく、翻訳原稿を見せたプロデューサーから叱られてしまいました。「こんなの放送できないこと、テレビマンなら翻訳する前にわかるだろ!」と。

しかし、視聴者の多くが眉をひそめるだろう過激な描写や表現をまるめるのは、ときに行き過ぎはあるにせよ、公共放送として取るべき態度であることも確かです。それをおかしいというのは、テレビというものを誤解しています。視聴者にそう誤解するように仕向けたのはテレビなのですが、それはまた別の話です。

だからぼくは、2番目の主張の人に概ね同意します。しかし、質の低い翻訳が出てくる経緯について違うと感じる点があるので補足しておきます。

NHKの翻訳は、安いバイトに頼んだりはしません。民放ではそういう場合もありますが、NHKではありえません。NHKの翻訳業務は、番組ごと外部委託する場合と、一部の例外を除き、子会社のNHK情報ネットワーク所属のバイリンガル・センターという部署に独占的に委託されます。BSニュースとかで同時通訳を引き受けている部署です。

だから訳したのはアマチュアではなく、プロのはずです。ただし、彼らの通常の業務はニュース翻訳であり、歌詞や芸術作品の翻訳は不得意です。かつてNBAの黒人選手たちのインタビュー翻訳を頼んだら、普段バリバリにニュース翻訳している人に滅茶苦茶な訳をされた挙げ句、「あのー、実は何言ってるか全然わかんないんです…」と泣きつかれたこともありました。

民放の場合は、専属の翻訳事務所など持っていませんから、番組ごと、ディレクターごとにそれぞれ違う翻訳者に依頼することになり、その結果、サブカル系のネタについては逆に功を奏することもあります。しかしNHKはへたにお抱えの翻訳事務所を持つばかりに、時々ダメな翻訳をしてしまうのです。カネに余裕がないからではなくて、中途半端に余裕があるがゆえのミスなのです。

あと、2番目の主張の人は、レディ・ガガがスマップの番組に出たときの字幕を例にあげて、字数の問題ではないとしていますが、字数の問題は確実にあります。

テレビの翻訳字幕は、通常1行あたり最大で15文字、これを2行出す場合は5秒間出し続けるというのが理想とされています。もちろんこれは理想であり、歌の歌詞やくだけた会話を訳す場合はとても間に合いません。民放のエンタテイメント番組などの場合は、若い視聴者にターゲットを絞り、掟破りの長字幕、速字幕を出したりましますが、NHKは極力理想に近づけようとします。なにしろ、80歳のお年寄りでも安心して読めるようにしなくてはいけないのです。

もしぼくがガガの歌詞翻訳を依頼されていたら、最も悩むのは字数の問題でしょう。そして正しく歌詞の意味を把握していたとしても、何とか字数を理想に近づけるために、頓珍漢な訳にしてしまった可能性は排除できません。だからむしろ、問題とされている訳を見て、賞賛したいくらいです。

ほんの5年くらい前なら、あの程度に訳しておけば何の問題もなかったに違いありません。もうテレビは無理だなと、つくづく思います。



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この記事へのコメント
明けましておめでとうございます。
以前からこちらのブログを読ませていただいております。
私は紅白を視てなかったので、訳詞の件は年が明けてからツイッター等で知りました。
私自身LGBTの一人ですが、騒いでいる人達の方に驚いている側です。
幅広い年齢層の視聴者がいる紅白で、今回の様な訳詞になるのは仕方無いと思います。
何か意図があったと言っているLGBT活動家は考え過ぎか、
もしくは「騒ぐ」という事自体が目的だと思われてなりません。
活動家の中には物事や発言の粗を探し、無理矢理こじつけてでも差別の問題に仕立て上げようとする人々がいるのを知っているだけに、
今回の件は彼らのかっこうの餌になってしまったと思っています。
Posted by モシュカ at 2012年01月03日 21:35
NHKのする英語の訳で、 なんか違和感がと思うのはこの件だけではないので この件だけをきっと見ててたまたま突っ込みやすかったんだろうなぁと思った 気にしてたらNHKのニュースや海外ドラマも見れませんから
Posted by tu at 2012年01月04日 22:12
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