この法案の主旨は、アメリカ国外の「著作権違反サイト」を無力化することにあります。成立すれば、著作権者からの抗議ひとつで、グーグルなどのサーチエンジンは検索結果からそのサイトを除外しなければならなくなり、またサービスプロバイダは、そのサイトへのアクセスをブロックする義務を負うようになります。「違反サイト」にリンクを貼ることはもちろん、監視の穴をくぐり抜ける方法を公開するのも違法とされ、当局の命令を無視すれば、違法な書き込みに場を提供したソーシャルサービスなどは、サービス停止を迫られることになります。
こんなことになれば、今あるネットの世界は崩壊します。そこで、グーグル、ツイッター、フェースブックなどの企業は法案反対を呼びかけ、アメリカのネット民は左右の対立を超えて共闘し、法案に賛同する企業に集団ボイコットを呼びかけるなどして抵抗し、あたかも新世界対旧世界の衝突の様相を呈しています。先日の抗議行動により、法案に賛成していた数名の議員は意見を翻しました。しかしまだ法案は生きており、予断を許しません。
そんな中、1月18日付で、法案のメインターゲットともいえるビットトレントサイト、ザ・パイレート・ベイが興味深い声明を発表していましたので、訳出しておきます。
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100年前、トーマス・エジソンは、「眼に対する蓄音機」にあたる装置の特許を取得した。彼はそれをキネトスコープと名付けた。彼は映像の撮影に成功したパイオニアの一人であるとともに、映像の特許を取得した最初の一人だった。
エジソンが映画の特許を取得したがために、アメリカの東海岸で映画を作ることは、高くつきすぎてほとんど不可能だった。そこで映画会社はカリフォルニアに移転し、今日のハリウッドを築くにいたった。カリフォルニアにはエジソンの特許がなかったからだ。著作権もあってないようなものだったために、映画会社は既存のストーリーをコピーして映画を撮影した。ディズニー最大のヒット作「ファンタジア」はその筆頭だ。
というわけで、今日知的財産の保護を叫ぶ業界の基礎は、知的財産権を回避したことにより築かれた。彼らは他人が創造した作品を、カネを払うことなくコピー(彼らはそれを「盗む」と呼ぶ)したのだ。がっぽり儲けるために。今日、彼らはみな成功し、ほとんどの映画制作会社はフォーチュン500に名を連ねる大企業だ。おめでとう!すべては他人の作品を使いまわしたからだね。そして今、彼らは他人の作品に対する権利を有している。なにかリリースしたければ、彼らのルールに従わなくてはならない。他人のルールを回避した後、彼らにより作られたルールにだ。
彼らが「海賊」に文句を言う理由は単純だ。ぼくらが彼らと同じことをしたから。ぼくらが彼らのルールを回避して、自分たちのルールを作ったからだ。ぼくらは人々により効果的なものを提供することで、彼らのモノポリーを壊した。ぼくらは、ときに107パーセントにも及ぶ中間搾取(そう、カネを払って働いているんだ)を取り除き、人々が直接にコミュニケーションをとれるようにした。すべては競争原理だ。もはや彼らは、今ある形では必要ない。ぼくらの方が優れているのだ。
おもしろいことに、ぼくらのルールはアメリカ建国の理念にとても近い。ぼくらは言論の自由のために戦う。ぼくらは、すべての人は平等だと考える。ぼくらは、エリートではなく大衆が国を治めるべきだと信じている。ぼくらは、法律は大企業のためではなく、民衆のために作られるべきと信じている。
ザ・パイレート・ベイは国際的なコミュニティだ。チームは世界中に散らばっているが、アメリカでは活動できない。ぼくらのルーツはスウェーデンにあるが、あるスウェーデン人がこんなことを言っていた。SOPAはスウェーデン語で「ゴミ」を意味し、PIPAは「パイプ」を意味すると。もちろんこれは偶然だが、まさに彼らはインターネットを一方通行のパイプにしようとしている。上にいるのは彼らで、パイプの下にいる従順な消費者に、無理やりゴミを食らわせるのだ。この件に関して人々の意見は明らかだ。誰に聞いても、ゴミを食わされて満足する者などいないだろう。アメリカ政府がなぜ国民にゴミを食わせようとするのかはぼくらの理解を超えている。しかしぼくらは、みんながゴミに溺れてしまう前に、政府の改心を願っている。
SOPAはザ・パイレート・ベイを止めることはできない。最悪の場合でも、ぼくらはトップレベルのドメインを現在の.orgから、すでに使用している数百の別のネームのうちのどれかに変更すればすむことだ。ザ・パイレート・ベイをブロックしている国、中国とサウジアラビアがまず浮かぶけれど、そういう国はぼくらの数百のドメインネームをブロックしている。それで効果が出ているかい?とんでもない。
「違法コピーの問題」を解決するには、問題の本質まで問わなくてはならない。エンターテイメント業界は「文化」を創っていると言うが、実際に彼らがしているのは、ボッタクリ価格をつけた人形を売り、11歳の少女を拒食症にしたりとか、そんなことばかりだ。ある少女は人形工場でタダ同然でこき使われて、別の少女は映画とテレビを見て、太りすぎだと思い込んで。
偉大なるシド・マイヤーズのゲーム「シヴィライゼーション」では、文化遺産を建築することができる。そのうち最も威力があるもののひとつがハリウッドだ。ハリウッドがあれば、世界の文化とメディアを支配することができる。マイスペースを買収したルパート・マードックは、事業に失敗するまでは、マイスペースで横行する海賊行為を気にもとめていなかった。今や彼は、グーグルこそが海賊行為の大元締めだと文句を言っている。嫉妬からだ。彼は人々をマインドコントロールし続けようとしているが、フォックスニュースよりも、ウィキペディアとグーグルに頼った方が、より確かな見識を持つことができる。
このプレスリリース内のいくつかのデータ(年度、日付)には、たぶん間違いがあるだろう。ウィキペディアが停止していたため、情報を確認できなかったからだ。競争に負けた者たちからのプレッシャーのためだ。その点は陳謝します。
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<追記1>
本日、米政府の圧力でメガアップロードが閉鎖されました。
Feds Shut Down Megaupload.com File-Sharing Website
18日の抗議行動に対する見せしめと思われます。もしこのまま権利者団体と政府の圧力が強まり、以前から睨まれている2ちゃんねるのアメリカ版と呼ばれる4チャンが閉鎖されでもしたら、ネット戦争が始まるかもしれません。
<追記2>
ハッカー集団の「アノニマス」が、メガアップロードの閉鎖に抗議して、.govドメインと音楽レーベルにハッキング攻撃を開始したようです。