2012年01月22日

赤くて赤くない青春映画

「映画芸術」誌が2011年の日本映画ベストテン&ワーストテンを発表していました。

2011年日本映画ベストテン&ワーストテン

「映画芸術」といえば観念左翼的な雑誌として知られ、毎年恒例のランキングは、妙にひねくれていることでネタ視されています。で、今年のランキングですが、「マイ・バック・ページ」がワースト映画にランクインしていて、さもありなんと思いました。

B005FD5G1Kマイ・バック・ページ [Blu-ray]
バンダイビジュアル 2011-12-02

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「マイ・バック・ページ」は、赤い若者たちが熱く燃えた1970年前後の青春群像で、実際におきた極左による自衛官刺殺事件「赤衛軍事件」(映画の中では赤邦軍)を描いています。似たタイプの映画としては、2008年の「実録・連合赤軍あさま山荘への道程」がありますが、同じ赤い青春映画でも、こちらは高評価していたので、落差が際立ちます。

赤衛軍事件は、60年代末から70年代初頭にかけて頻発した過激派事件の中で、異彩を放つ事件です。あまりの異質さ、醜悪さに、通常この事件は、一連の「若者の反乱」から除外して考えられています。

朝霞自衛官殺害事件

しかしぼくは、赤衛軍事件こそ、あの時代の急所を突く出来事と見ています。あの時代を振り返る論評は、総じてマスメディアを空気視し、時代を転がすビッグブラザーとしてのマスメディアの役割を無視しています。しかしこの事件では、マスメディアこそ主役で、怪物を作り、怪物に餌をやり、最後には怪物に噛まれてしまいます。

連合赤軍事件が、ビッグブラザーの手の平の上で踊る純粋まっすぐ君が行き着いた極北とするなら、赤衛軍事件は、サイコパス的な男が、トリックスターとしてビッグブラザーを発見し、ビッグブラザーを踊らせた事件なのです。

「マイ・バック・ページ」は、同名の原作を下敷きにしています。事件に関与して逮捕された元朝日新聞社員により書かれた原作は、あの時代を感傷的に振り返るのが流行した1980年代に書かれたせいか、とても感傷的です。著者にはあの時代がトラウマとして残っていて、感傷に流されてはいけないと必死に抵抗しているのですが、結局感傷的にならざるをえないような、そんな作品です。

4582834841マイ・バック・ページ - ある60年代の物語
川本 三郎
平凡社 2010-11-26

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だからぼくは、映画を見るまでとても心配していました。時代の鍵を解く重大な事件が、感傷で処理されてしまうのではないかと。

しかしそれは杞憂でした。この映画は、松山ケンイチ演じるサイコパスのトリックスターを、同情する余地のない偽物として描きます。そのため、そんな小物に振り回されるまわりは、真剣に悩み、真剣に行動すればするほど、救いようのない戯画に堕していきます。そして、あの時代をゴミとして葬る直前に寸止めし、感傷のベールで包んで、肩を抱いてあげるのです。そんな映画が、あの時代を捨て切れない人に嫌な気分を抱かせるのは当然かもしれません。

この映画は、必ずしもマスメディアを攻撃する映画ではありません。妻夫木聡演じる雑誌記者の、サイコパス革命家君に対する「君は誰だ?」という問いかけに、「あなただ」と答えたりはしません。しかし、そういう見方を排除しないところに、映画作りの手練らしいうまさを感じさせます。

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この記事へのコメント
熱く萌えた、じゃなく燃えた青春・・

けど、連合赤軍事件の犯人の写真を見てると、妙に顎がガッシリしてたり、顔が薄いなぁ、と思うんですが?

私だけ?
Posted by 昭和青年 at 2012年01月22日 18:32
久しぶりに訪問して読み返しましたが、
oribeさんの評論は本当に面白い!
Amazonで安くなっているので、
購入して正月に鑑賞しよう思います。
Posted by むしゃお at 2013年12月14日 04:10
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