フランス:プチベビーブーム 4年連続、出生率「2」超え
フランスは、国家による手厚い出産・育児支援で知られており、この記事でも高出生率の理由として、「フランスにおける育児と仕事の両立のしやすさ、手厚い出産奨励策などが低出生率に悩む日本など他の先進国との違い」と、フランスの専門家に語らせています。
この記事を読んで、「少子化の日本もフランスのように手厚い出産・育児支援をすれば子は増えるに違いない」との印象を持つ人は少なくないと思います。
しかし、子を産み育てるというのは、社会の文化に深く根ざした問題で、政府が笛を吹けば、それに合わせて女性が子供を増産し始めるという発想は、いささか短絡的すぎるように思います。一国の出生率のような問題は、政府の政策だけでなく、ひとつの生命体としての社会のうねりを見ることなしには語れないはずです。
たとえばフランスの場合、かの国の人口動態が、歴史的に見てきわめて特異な変遷をしてきたことは、あまり知られていません。日本を含むその他の先進国では、産業革命による科学技術の進歩にともない人口が急増し、第二次大戦後にベビーブームを迎え、1970年代から人口増加にブレーキがかかるという共通パターンを描いています。しかしフランスは違います。
フランスの人口動態について非常に詳しく書かれている英語版のウィキペディアによれば、フランスの人口動態は、1800年頃から、他の欧州諸国と著しく違う動きをし始めました。
Demographics of France
18世紀のフランスは、欧州ではロシアを超える人口大国で、世界でも中国とインドに次ぐ人口密集地帯でした。しかし19世紀に入ると、農業革命と医療の進歩により人口爆発を迎えたイギリスやドイツとは対照的に、なぜかフランスは長い少子化に突入したのです。もし1815年以降のフランスの人口増加率がイングランドと同じであれば、現在のフランスの人口は、1億5千万人を超えていたと見積もられています(実際には6千3百万人)。
第一次大戦と第二次大戦の戦間期には、ついに人口増加率は事実上のゼロとなりました。ここに至り、フランス政府は動きました。積極的な移民の受け入れと、出産支援を開始したのです。フランスの出産支援は昨日今日始められたものではなく、1939年に制定された「家族法」以来、70年以上にわたり続けられている取り組みなのです。
しかし、その効果については微妙です。第二次大戦後のフランスはベビーブームを迎えましたが、それは他国でも起きたことです。また、1970年代以降は他国同様に出生率が低下し、1990年代初頭には、むしろ他国よりも大きく落ち込みました。
その後フランスの出生率は再び上昇に転じ、今日に至ります。毎日新聞の記事は、その経緯を次のように説明します。
出生率は64年の2.91以降、低下傾向が続き、94年に1.66を記録した後、上昇に転じた。仏国立人口研究所は回復の要因として、(1)男女平等意識の浸透や育児休暇制度、保育施設の拡充などで女性の子育てと仕事の両立が容易になった(2)子どもの多い家庭を優遇する手当と税制度(3)結婚より手続きが簡単で、ほぼ同等の税控除などを受けられるパクス法の制定(99年)で婚外子が増えた−−ことなどを挙げる。
しかし以上は、自分たちの存在理由を肯定する見立てしかしない役所の見解ですから、差し引いて見なければなりません。フランスの出産支援は昔からある制度ですし、婚外子を奨励するパクス法の効果についても、出生率はそれ以前から上昇に転じていました。また90年代の後半には、フランス以外の欧州各国でも出生率は上昇に転じていました。こうした全体図から見れば、出生率上昇の理由を政府の取組みのみに求めるのは、強引すぎるように思います。
そして移民の問題があります。すでに述べたように、フランスは20世紀の初頭から、人口補填策として移民を迎え入れてきました。当初は欧州各国から、戦後は北アフリカを主とする旧植民地から、大量の移民を受け入れました。2008年の統計によれば、フランスには約1200万人の外国生まれの移民家族が暮らしています。
こういう状況ですから、フランスの高出生率は、子だくさんな移民によりゲタをはかされているのではないかという疑問は当然出てきます。
1991年から98年にかけて行われた調査によれば、移民の女性は、純正フランス人女性にくらべて、0.4人ほど多くの子供を産みます。特に移民全体の約半分を占めるイスラム系の移民は出生率が高く、モロッコ系2.97、チュニジア系2.90、アルジェリア系2.57、トルコ系は3.21と子だくさんです。また2008年の調査によれば、新生児の28.45パーセントは両親か片親が移民、とくにパリがあるイル・ド・フランス地域圏の新生児の55.68パーセントは移民の子です。ーーこうした数字をどう解釈するかは、今回のエントリーの主旨ではないので保留しておきます。
というように、人口問題における日本とフランスは、歴史的、構造的にあまりに違いすぎます。フランスという文化体は、過去200年間日本とはぜんぜん異なるうねりで生きてきたのであり、こうしたコンテキストを無視して、政府の出産支援だけに注目するのは、あまり意味のないことだと思います。
フランス以上に出産を奨励する政策を取っているドイツなどでは出生率は上昇していないことからも、それは明らかです。
毎日新聞に掲載された仏国立人口研究所による回復の要因の第三番目「パクス法の制定(99年)で婚外子が増えた」ですが、正直、ピンと来ません。なぜなら、パクス法制定前から未婚男女とこの二人の子供で形作られる家庭はいくらでも存在しているからです。一例は次期大統領候補フランソワ・オランド氏とセゴレーヌ・ロワイヤル女史の間の4人の子供です。
ここまで乖離しては無理もないと思うね。
高等教育を受けて就職した女性なんかは
生殖能力が低下し始める年齢になって
やっと社会的な結婚適齢期を迎えるというのではどうしようもない。
その上、男性の社会的成熟が家族を養えるだけの収入を得ること
という条件がこれまた厳しい。もう一つ厳しいことに、稼ぎが良くなると独りで遊んでいたいという欲望が強まるし(笑)
少子化を調べていて、今の対策は逆効果かもしれないという内閣府の調査がありました。
◆平成20年度 アジア地域(韓国、シンガポール、日本)における少子化社会対策の比較調査研究
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa20/hikaku/mokuji-pdf.html
の最後の方に以下のような分析がありました。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa20/hikaku/pdf/p365-371.pdf
(1)高い父親の家庭参加率―高い母親の労働参加率―低い出生率
(2)短い出産休暇―高い母親の就業率―低い出生率
つまり、女性の労働参加率が上がれば上がるほど、欧米では出生率が上がるのに対し、シンガポールや香港では『下がる』という傾向にあるとのことです。
フェミニストが「女性の労働参加率を上げろ」「保育所を整備しろ」というのは全くの逆効果になっているかもしれないということです。これは、一般人の感覚とも符合すると思うのですがどうでしょうか。
訂正のついでに、pdfの最後のページについてですが、
●アジアでは教育重視の価値観から、教育に金をかける意識が強い⇒負担感増で少子化
という箇所は日本でもよく言われているところです。結論として公教育の充実が望まれます。
また、出産費用・医療費の軽減も大切かと思われます。
その他、印象に残ったものは、
●希望のもてる国は出生率が高いというイメージだが、シンガポールは希望のもてる国なのに低い
というところでした。実際日本でもバブル期にも出生率が下がり続けていたので符合すると思います。
少子化は大変難しい問題ですが、なるべく早期に何とかしなければなりません。
それでは。
偶然か、自虐教育が影響してるのかは解らないけどね