ドイツ人はどんな小さな汚職も許さないというわけではありません。日本に比べれば桁外れに厳しいことは確かですが、過去には汚職を大目に見られた大統領もいます。
ではなぜ地位を追われたのかというと、下の辞職会見の写真はその理由をよく表しています。目立つのは若くてきれいな妻のベッティナさんで、大統領は優等生官僚にしか見えません。言動もその見かけどおりの彼は、ようするに大統領の器ではないのです。
汚職疑惑が浮上したとき、彼は「ビルト紙」の編集長や経営者に電話をかけ、大騒ぎしないように圧力をかけました。中道保守大衆紙のビルトと中道保守政治家である大統領は、本来分かり合えるはずでした。しかし新聞社に彼を庇おうという空気はありませんでした。ビルト紙は圧力を無視し、逆に反ヴルフキャンペーンを開始しました。
ビルト紙のキャンペーンは、ベッティナさんの元売春婦疑惑を伝えたりと、品性に欠けるものでした。しかし、ビルト紙を蔑んでいたはずの知識人たちは冷静な議論を呼びかけたりせず、「こうなるのも仕方ない」とリンチを放置しました。
ドイツの大統領は、ワイマール共和国時代に政治混乱を招いてナチスの台頭を許した経緯から、政治的に何の実権もない名誉職です。それだけに、大統領には「サムバディ」であることが求められます。
普通の政治家なら、人格はともかく仕事ぶりで勝負できます。しかしドイツの大統領は仕事で勝負できないので、人徳で勝負するしかありません。とにかく「何者か」であることで、国民から慕われるしかないのです。
そういう立場の人が徳を示せないとどうなるかを、ヴルフ大統領の転落は表しています。免疫機能の低下した人間が風邪をこじらせて命を落すように、ほんの小さな失点からダムは決壊し、あげくに大統領職そのもののステータスまで失墜させるに至りました。
ドイツの大統領と同じ立場である日本の皇室も同じです。今上天皇は徳の塊ですから何の問題もありません。さらに皇室には歴史と伝統もあります。しかし、徳を感じさせず、さらに自ら伝統を軽んじるような人物がその地位につけば、皇室といえどもどうなるかわかりません。
これは発想が逆です。
まぁ、日本にもこういう発想をしたがる人がいるのは想像できますがw
すなわち、日本の皇室あるいは欧州の伝統的な王室の代用品として人工的に造られたのがドイツ等の大統領制であることは、歴史的に見ても今さら言うまでもないことです。
本来の王室であれば、伝統や文化(国民に共有されているものだけでなく、王室に家訓として伝承されているものも含む)、もしくは藩屏としての貴族制度等がその権威や伝統を担保しますが、人工的に造られた大統領にはそれがなく、ちょっとしたことで崩れてしまうというだけのことです。
もっとも、民主的()に権威や徳のある人物を選ぶということには矛盾があり、人気投票と大差がないような気もしますがw
長い歴史の中では様々なタイプの王が存在し、王室を存続させている国ではそうした場合の対処法も歴史的に蓄積されているもので、一時的に徳のない王が存在しても、王制自体にはあまり影響がありません。
日本でも女系天皇とか女性宮家といったつまらない政治的な議論は止めて、伝統の確認という意味でも、まずは皇室関係者の話を聞くということから始めるべきでしょうね。