2013年01月24日

イーベン・バイヤーズの悲劇

先日、「The Untold History of the United States」という米帝バッシングの本を読んでいたら、そこにほんの少し出てきたエピソードが妙に印象深く、本題とは関係のないそのエピソードが頭から離れないので記しておきます。

それは、イーベン・バイヤーズのお話です。

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1880年に鉄鋼王の御曹司として生まれたイーベン・バイヤーズは、スポーツに秀でた華麗なプレーボーイでした。とくにゴルフの腕前は超一流で、1906年には全米アマで優勝したほどでした。映画「ボビー・ジョーンズ ~球聖とよばれた男 ~」には、14歳のボビー・ジョーンズにマッチプレーで敗れる役として登場しています。

やがてバイヤーズは製鉄会社の会長におさまり、未曾有の好景気に沸いた「狂乱の1920年代」を優雅に過ごしていました。しかし1927年にチャーター列車の寝台から落ちて腕を打撲し、それ以来腕の痛みに悩まされるようになりました。医者はバイヤーズにある薬をすすめました。「Radithor(レディトー)」です。

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レディトーというのは蒸留水にラジウムとトリウムを混ぜた放射能水です。濃度は1本あたり7万4000ベクレルでした。先日、福島第1原発の港で採取した魚から、今までの最高値である1kgあたり25万4000ベクレルの放射性物質が検出されたと騒がれましたが、1本60mlのレディトーの場合、1kgあたりに換算すると実に123万ベクレルを超えます。

なぜそんな汚染水を飲むのだと思うかもしれませんが、当時の人々は放射線は健康に良いと考えており、放射線物質入りの歯磨き粉だとか、放射能水を作るポットなどの放射能健康グッズが氾濫していたのです。レディトーはそのひとつで、販売者は「表示以下の含有放射能なら1000ドル差し上げます!」と品質を保障していました。

さて、レディトーを飲んだバイヤーズはすぐに気に入りました。本人曰く腕の痛みは消え、肌の艶は良くなり、精力も増したそうです。バイヤーズはレディトーをケースで買い込み、1日に2本から3本欠かさず飲み続けました。しかし飲み始めてから1年ほどすると、体は痩せ、やがて歯も抜け始めました。検査を受けた時にはすでに手遅れでした。

およそ2年間にわたり1400本におよぶレディトーを飲んだバイヤーズは、計1億8500万ベクレルの放射性物質を体内に入れたと推定されています。やがて顎の骨は壊死して脱落し、脳は膿み、頭蓋骨は崩れて穴だらけになりました。苦しみ抜いた末に1932年に死亡したバイヤーズは、鉛でコーティングされた棺桶で葬られたといいます。

怖い話です。しかしより怖いのは、当時の人々は決して放射線の危険性に無知だったわけではないということです。

1904年に放射線障害で両腕を切断して癌で死んだエジソンの助手を筆頭に、放射線による悲惨な症例は数多く報告され、専門家たちは放射線の危険性を十分に認識していました。しかしそうした事実ははなから放射線を良きものと思い込む人たちの頭には届かず、バイヤーズは自らの身を滅ぼしたのです。

放射線信仰は1945年の原爆投下まで続き、その後は180度転回して今日に至ります。

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この記事へのコメント
 レディトゥーの話は初めて聞きましたが、適量の放射線が体に良いという話は決して嘘ではないでしょう。 例えば、ラジウム温泉というのは、普通にあります、ラドン温泉は各地にあります。又、自然界にも放射線を出すものは多く存在しています。 ウラニウム同位体は、海水中に膨大な量があると言う事が判っています。

 但し、「適量」でなくては危ういのは、殆どの抗生物質が処方箋を守らないと下手をすれば死んでしまう「毒」でるのと同じですし、同じ量を飲んでも、体質や常食しているモノに拠っても現れる影響が変化するのも同じです。

 放射能は「未だよく分っていないから危ない」のであって、何が何でも危ないわけではない。

 万能薬信仰と云う悪弊は、何処の国にもいつの時代にもある様ですが、その殆どは、「よく分らない」のに、「効いた」と云う成功体験ダケを基にしているからで、是は一種の信仰です。

 「放射能は危険だ」と云うのも、その信仰の端的な現象でしょう。
Posted by ナポレオン・ソロ at 2013年01月24日 12:47
毒にも薬にもなるって言いますが、ものには限度があるってことですな。
Posted by   at 2013年01月24日 14:08
この薬については、「ラジトール」として科学史の授業で学んだけど、どっちの発音が正しいのかな?
Posted by ppu at 2013年01月24日 19:01
この話は知らなかったので面白かったです
Posted by aaa at 2013年01月24日 22:16
レディトーとラジトール。
マイケルとミカエルの違いみたいなものですね。
英語圏と(たぶん)ドイツ語圏の違い。
Posted by azaz at 2013年01月25日 21:59
これ今でもシャレにならないんですよね。

ガン検診や手術は意味がないどころか、有害で却って寿命を縮めてる。
と反対派の医者は警鐘を鳴らしてるのに、多数の人は知りません。

無駄どころか有害なことに、営々と手間と金をつぎ込んでいる今の人間に、未来の人間は呆れかえるでしょう・・
Posted by 昭和青年 at 2013年01月26日 10:44
>> ナポレオン・ソロさんへ
>適量の放射線が体に良いという話は決して嘘ではないでしょう。

さらっとウソ書くのはやめましょう。
適量が体に良いなら、妊婦さんこそ、適量の放射線を浴びるように、国が指導するべきです
ちょうど、インフルエンザ予防接種のように、定期検診で放射線を当てるべきですよ。
今の日本では、妊婦の被曝は厳しく制限されています。
現実には、放射線は危険なのです。

それと、ラジウム温泉に「入る」のと
ラジウム温泉水を「飲む」のは、全然違いますよ?

この話、「イーベン・バイヤーズの悲劇」で

「飲んだら危険」と説明しているのに
「お風呂に溶かせば安全」といわれても、「論点のすり替え」だとしか思えませんが?

プールの消毒剤、「塩素プール」は安全。むしろ清潔でいい。
だから「塩素プールの水を毎日飲んで」健康になろう

ラジウム温泉は安全。
だからラジウムを飲んで、健康になろう!!

馬鹿かと。
いや、失礼。わざと論点のすり替えをしたのだから、ご苦労様。というべきでしょうね。
Posted by qawse at 2014年11月13日 19:22
細胞の入れ替わりを早くすると病気や怪我が速く治る場合がある、細胞の入れ替わりを早くするという事は細胞を殺すという事、細胞はある程度の死滅なら回復するので結果として新しい細胞が補われ温泉などの効能として重宝されている。
細胞を殺すわけなので「放射線=健康にいい」わけではないが結果として健康になる場合もある。
(癌細胞は自殺しないなど)
塩素のプールの水を飲む例えも良くない、塩素が無ければ大腸菌やその他の細菌で感染症になるかもしれない、塩素の水が体にいいわけではなく有害な細菌を飲むよりマシというだけ。
Posted by 通りすがり at 2019年08月11日 20:34
細胞の入れ替わりを早くするレベルでの被ばくはあからさまに危険。
細胞にほぼ無害なX線検査ですら、ほんのわずかではあるが発がん性の危険がある。

ラジウム(ラドン)温泉もほんのわずかではあるが発がん性がある。
しかしラドン浴には適度な放射線によるものなのか、神経痛などの緩和、免疫の亢進などの効果が確認されている。

放射線治療は、発がんリスクを取って治療効果を得るものであることを認識してほしい。
Posted by えっ、この放射線低すぎ? at 2019年11月11日 04:28
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