2014年08月04日

第一次世界大戦

ちょうど100年前の1914年の8月4日、イギリスはドイツに宣戦布告し、第一次世界大戦は真の大戦となりました。

日本人はあまり第一次大戦について詳しくありません。イギリスと同盟していた日本は連合国側に立ちドイツに宣戦布告しましたが、欧州に派遣したのは海軍だけで、あとは青島攻略とミクロネシアを占領した程度で、事実上大戦を体感せずに済ませたのだから仕方ありません。

しかし第一次世界大戦はあらゆる意味において大きな意義を持つ大戦争で、この戦争を境に世界は大きく変貌しました。第二次大戦など所詮20年間の休戦期間を挟んだ第一次大戦の継続戦争に過ぎないと言われますが、まさにその通りで、その社会的意義は比較にもなりません。

日本人はこの戦争を体験せずにいたばかりに時代を読み誤り、1920年代に右往左往した挙句外交的に孤立し、亡国の道を辿りました。第一次大戦にこそ、20世紀前半の日本の迷走の根源はあるのに、当時も、そして今もそれを自覚していません。

第一次大戦はとても奇妙な戦争です。何しろ原因がわかりません。教科書を読めば、「オーストリアの皇太子暗殺で…」とか「イギリスとドイツの植民地政策の対立で…」とか「複雑な同盟関係により…」とか書いてありますが、どれも的外れです。1600万人の犠牲者を出した大戦争なのに、戦争当事国の国民ですら何のための戦争なのかよくわからず、ただ無性に相手が憎くて殺しあうような戦争でした。100年後の今も、これという決定的な理由は定まっていません。

ただあの戦争がもたらしたものははっきりしています。戦争を境に19世紀的社会体制と価値観が崩壊し、20世紀が始まったのです。社会も経済も政治のあり方も、そして人々の世界観も、第一次大戦を境にガラッと変わりました。今の社会常識の多くが、第一次大戦にその根源を持つのです。

そう考えるとあの戦争は、因果関係が逆なのではないかと思えてきます。戦争が起きたから世の中が変わったのではなく、世の中が変わったから戦争が起きたということです。

開戦を迎えた時の各国国民の異様な陶酔ぶりや、皇帝たちから将軍まで、権力者の誰一人として事態を制御できずに翻弄され続けた様子を見ていると、水面下で生じていた変化が蓄積し、あるきっかけで爆発し、プレートがずれてドンと揺れる大地震のように一気に爆発したように思えてなりません。

大衆の一部と化して顔と名前を失った人々が、大衆のための社会を求めた。或いは歯車と化した人々が歯車社会を求めたのです。

それはともかく、第一次大戦で生まれた社会は今も続いています。そしてあの時と同じように、水面下でそれは大きく変わりつつあります。しかし一方で社会の表層は盤石に見え、いくら嘆こうとリアルは何も変わらないという感じもします。ここも、19世紀的社会が永続すると錯覚し、ある者は安穏とし、ある者は幻滅していた100年前と同じです。

第一次大戦を機に始まった20世紀という歪な時代は必ず終わりが来ます。恐らくそれは、第一次大戦なみの大激震とともに一気に崩れます。それは必ずしも戦争という形をとらないかもしれませんが、その時は近いのです。

だからこそ、20世紀の終わりに20世紀の始まりを再確認しておくのは大事なことだと思います。特に日本の場合は、すぐ近くに文字通り100年前を生きている国々まであるのですから。

古いBBCのドキュメンタリーに字幕をつけたので、今日からアップしていきます。全26回と長いですが、お好きな方はどうぞ。













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この記事へのコメント
大変な労力、ありがとうございます。
Posted by MUTI at 2014年08月04日 23:31
なんという素晴らしい仕事!
ありがとうございます
Posted by Indigo at 2014年08月05日 09:35
勉強なります。ありがとうございまっす
Posted by つ〜たー at 2014年08月08日 09:51
久しぶりの更新、うれしかったです。
数年前までは伏水流のように目に見えづらかったものが、今は大きな流れとなって溢れ出してきそうな感覚は、多くの人が感じているのではないでしょうか。
Posted by nabe at 2014年08月08日 21:00
私も第一次世界大戦に関心をもって勉強しはじめたところだったので、本当に助かります。こころより敬意を表します。
音から拾って字幕にするというのは大変な労力だと思います。
まるでアラ探しのようですが、一点だけ数字のまちがいがあったので。vol1で英外交官がロシアの悪路を表する場面で、「80マイル(約130km)に16日」という部分が、100キロに18日となっていました。本質には全く影響ないので、御指摘するのも気が引けるのですが、ご参考まで。他意はありません。
Posted by かろかろ at 2014年08月08日 21:30
おおおお更新待ってました!
字幕作成作業お疲れ様です。
文章は翻訳ソフトなどで何とかなってもリスニングはお手上げだったので本当に有り難いです。
Posted by ppp at 2014年08月09日 15:12
動画投稿&字幕入力作業お疲れ様でした。そしてありがとうございます。
自分は第一次世界大戦ときいて何も思い浮かびません。それくらい曖昧で印象が薄いものです。これを機に勉強したいと思います。

突然更新が途切れてショックでした。次の更新も楽しみにしています。
Posted by なぞなぞ at 2014年08月10日 11:38
更新お待ちしていました
お体に気をつけて、無理をしない程度に
がんばってください
Posted by 7氏 at 2014年08月10日 22:12
第一次世界大戦こそが世界を変えた、という点には概ね同意しますが、幣原全権が日英同盟を破棄支持した理由などを調べると、当時の日本が第一次大戦の意味を理解していなかった、というところには疑問を覚えます。

第一次世界大戦において、国家間の同盟が平和よりもむしろ戦禍を招きいれる原因となったと看做すウィルソン的世界観の共鳴者であったため、日本はあえて日英同盟の継続を熱心には選択しませんでしたし。

また、当時の日本の貢献については同盟解消と敵対に伴って英国の戦史から意図的に削られているため、矮小化されていますが(そして日本でもイギリス視点の日本の貢献を貶めた評価が多いですが)、チンタオと南洋諸島だけでなく、ドイツ東洋艦隊を牽制し続け、東はカナダ西岸までカバーしています。
Posted by グァバ at 2014年08月15日 01:46
おお! 更新されてる
このブログのファンだからうれしい (^ ^)
Posted by g,y at 2014年09月05日 09:25
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