2014年08月04日

第一次世界大戦

ちょうど100年前の1914年の8月4日、イギリスはドイツに宣戦布告し、第一次世界大戦は真の大戦となりました。

日本人はあまり第一次大戦について詳しくありません。イギリスと同盟していた日本は連合国側に立ちドイツに宣戦布告しましたが、欧州に派遣したのは海軍だけで、あとは青島攻略とミクロネシアを占領した程度で、事実上大戦を体感せずに済ませたのだから仕方ありません。

しかし第一次世界大戦はあらゆる意味において大きな意義を持つ大戦争で、この戦争を境に世界は大きく変貌しました。第二次大戦など所詮20年間の休戦期間を挟んだ第一次大戦の継続戦争に過ぎないと言われますが、まさにその通りで、その社会的意義は比較にもなりません。

日本人はこの戦争を体験せずにいたばかりに時代を読み誤り、1920年代に右往左往した挙句外交的に孤立し、亡国の道を辿りました。第一次大戦にこそ、20世紀前半の日本の迷走の根源はあるのに、当時も、そして今もそれを自覚していません。

第一次大戦はとても奇妙な戦争です。何しろ原因がわかりません。教科書を読めば、「オーストリアの皇太子暗殺で…」とか「イギリスとドイツの植民地政策の対立で…」とか「複雑な同盟関係により…」とか書いてありますが、どれも的外れです。1600万人の犠牲者を出した大戦争なのに、戦争当事国の国民ですら何のための戦争なのかよくわからず、ただ無性に相手が憎くて殺しあうような戦争でした。100年後の今も、これという決定的な理由は定まっていません。

ただあの戦争がもたらしたものははっきりしています。戦争を境に19世紀的社会体制と価値観が崩壊し、20世紀が始まったのです。社会も経済も政治のあり方も、そして人々の世界観も、第一次大戦を境にガラッと変わりました。今の社会常識の多くが、第一次大戦にその根源を持つのです。

そう考えるとあの戦争は、因果関係が逆なのではないかと思えてきます。戦争が起きたから世の中が変わったのではなく、世の中が変わったから戦争が起きたということです。

開戦を迎えた時の各国国民の異様な陶酔ぶりや、皇帝たちから将軍まで、権力者の誰一人として事態を制御できずに翻弄され続けた様子を見ていると、水面下で生じていた変化が蓄積し、あるきっかけで爆発し、プレートがずれてドンと揺れる大地震のように一気に爆発したように思えてなりません。

大衆の一部と化して顔と名前を失った人々が、大衆のための社会を求めた。或いは歯車と化した人々が歯車社会を求めたのです。

それはともかく、第一次大戦で生まれた社会は今も続いています。そしてあの時と同じように、水面下でそれは大きく変わりつつあります。しかし一方で社会の表層は盤石に見え、いくら嘆こうとリアルは何も変わらないという感じもします。ここも、19世紀的社会が永続すると錯覚し、ある者は安穏とし、ある者は幻滅していた100年前と同じです。

第一次大戦を機に始まった20世紀という歪な時代は必ず終わりが来ます。恐らくそれは、第一次大戦なみの大激震とともに一気に崩れます。それは必ずしも戦争という形をとらないかもしれませんが、その時は近いのです。

だからこそ、20世紀の終わりに20世紀の始まりを再確認しておくのは大事なことだと思います。特に日本の場合は、すぐ近くに文字通り100年前を生きている国々まであるのですから。

古いBBCのドキュメンタリーに字幕をつけたので、今日からアップしていきます。全26回と長いですが、お好きな方はどうぞ。













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2013年01月27日

過去は清算できない

日本とドイツの過去に対する態度を比較して、「ドイツは徹底的に過去の償いをしている。だから周辺国は文句を言わないのだ。それに比べて日本は…」という言説をたびたび見かけます。これに対して日本の愛国者は「日本も過去の償いをしている。ただドイツとはやり方が違うのだ」と反論します。

しかしこの議論は重大な点を見逃しています。ドイツの周辺国がドイツの過去を赦しているように見えるのは、ドイツが反省して過去を清算したからではありません。ドイツの周辺国にはドイツの過去を糾弾する資格がないからなのです。

先日チェコで大統領選が行われ、左派のミロシュ・ゼマン氏が右派のカレル・シュワルツェンベルグ氏を接戦の末破りました。チェコの未来を決めるこの選挙には、実は60年以上前の過去が影を落としていました。1月中旬に行われたテレビ討論会で、シュワルツェンベルグ氏はチェコの暗い過去を指摘して国論を二分する感情的な軋轢を生じさせ、結果としてこれが選挙結果を大きく左右したのです。

シュワルツェンベルグ氏が指摘した過去とは「ズデーテンドイツ人」の追放です。戦前のチェコには250万人を越えるドイツ人が暮らしていましたが、戦後のチェコ政府はドイツ系住民たちの財産を没収して根こそぎ国外追放しました。シュワルツェンベルグ氏はこれをチェコ国民が向き合うべき過去であると指摘し、自らの脛の傷を見せられたチェコ人は激しく動揺したのです。

民族浄化をしたのはチェコだけではありません。ドイツに侵略された中東欧の各国は徹底してドイツ系住民を追放しました。合わせて1200万人のドイツ人が故郷を追われ、その過程で最低でも50万人が命を落としたと記録されています。

この歴史上最悪のエクソダスは、中東欧の国父レベルの人たちの手で行われました。チェコの場合、ドイツ人追放令を出したのは独立の志士の一人であるエドヴァルド・ベネシュです。彼らの罪を認めることは、建国の神話を否定することに他なりません。だからドイツに侵略された周辺国は過去に眼をつぶるのです。ドイツが反省しているから過去を責めないのではなく、ドイツの過去を責めると自分たちの犯罪とも向き合わざるをえないから過去に触れないのです。

ドイツとその周辺国にはこの暗黙の了解があり、それが少しでも破られると今でも醜い感情が噴出します。数年前には、追放ドイツ人たちの小団体が過去の補償について声をあげただけで、ポーランドではカチンスキ兄弟を先頭に激しい反独の嵐が吹き荒れ、ドイツはドイツで態度を硬化させ、両国関係は険悪になりました。今回のチェコの大統領選でも過去が大きな影響を及ぼしました。欧州では過去は死んでおらず、ただ双方の利害関係からフタをしているだけなのです。

日本と周辺国の間には、この相互の罪がありません。戦前の中国は日本人住民に酷いテロを繰り返し、戦後の朝鮮人は戦勝国気取りで日本人を足蹴にしました。しかしドイツの周辺国のような大犯罪を犯したわけではありません。日本の戦争をナチスと同格の大犯罪とするなら、罪は片務的であり、中国人も朝鮮人も、日本の過去を責めれば責めるだけ彼らの歴史はバラ色になります。こんな構造では過去にフタできるわけありません。

日本とドイツを比較して、日本は反省が足りないとする考え方は、1980年代後半に日本の新聞で盛んに叫ばれるようになり、1990年代初頭に頂点を迎えるとともに周辺国に輸出されました。ドイツのように謝れば、過去を清算して隣国と仲良くなれますよと彼らは囁きました。しかし、ドイツの過去は清算されていないのです。戦後70年近く経過しても過去は生き続けており、ただ双方の利害一致により協力して過去を振り返らないようにしているから、過去を清算したように見えるだけなのです。

誤認に基づいた日独比較論は日本国と日本人にとんでもない重荷を負わせました。過去にフタをする動機を持たない周辺国は、その動機が生じるまで延々と被害者を演じ、日本人はこれに付き合ってゆかねばならないのです。

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2013年01月25日

英のEU離脱と日英ブロック

イギリスのキャメロン首相が、2017年末までにEU離脱を問う国民投票を実施すると宣言しました。イギリスのEU不信は以前から顕著でしたが、明確にタイムラインを示されるとやはり衝撃的です。

EUの集権的官僚主義は、ファシズムや共産主義の基底にあるエガリタリアニズムの流れを汲むきわめて大陸的な姿勢で、海洋国のイギリスとは相容れません。しかし現実問題としてイギリスに、EUという自由貿易圏から離脱することによる経済的損失に堪えられるとは思えません。

仮にイギリスがEUを脱退したとしても、EUはイギリスとの交易をストップするわけではありません。しかし経済ブロックというのは、ブロック内にいることによる経済的恩恵は目に見えなくても、ブロック外におかれることによる経済的損失は甚大という特性を持ちます。EUという経済ブロックの外にポツンと孤立することは、イギリスの経済的凋落を意味します。

気持ちとしてはEUと別れたいけれど、別れると自立できないイギリスのジレンマを解決するには、別の経済ブロックに加入するしかありません。

ひとつはアメリカの経済ブロックに入ることです。イギリスの最大貿易相手国はアメリカですから、経済的には最も合理的な選択です。しかしそれは、アメリカと欧州の間で「バランサー」としての役割に存在意義を見出してきたイギリスが、アメリカのポチに転落することを意味します。独立心の強いイギリス人にすれば、大陸ヨーロッパと組む以上の屈辱です。

もうひとつの選択は、今や形式的な存在でしかない英連邦を強化し、経済ブロックとして復活させることです。しかしカナダはすでに米ブロックに属していますし、もはや大国とはいえないイギリスが今さら日の沈まない帝国の復活を叫んでも、雑魚国しかついてこないのは目に見えています。

このようなイギリスの状況を見ると、日本の置かれた状況に酷似しているのがわかります。世界のブロック化が止まらないのであれば、日本は中国ブロックかアメリカブロックに入るしかありません。どちらか選べとなるとアメリカブロック(TPP)しかないのですが、米帝の衛星国になるようで、プライドの高い日本人には厳しい選択です。

さて、こうした世界の状況を見てつくづく思うのですが、似たもの同士の日英は手を組めないものでしょうか?ユーラシア大陸の東西の端に浮かぶ両国を合わせた経済規模はなかなかのもので、米、欧、中の覇権に拒否感を抱く国々を惹きつけるだけの魅力を持ちます。

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イギリスのEU離れの理由には、EU経由でやってくる移民を制御したい思いもありますから、そこでも日本との価値観にズレはありません。日本からすれば、英語宗主国イギリスの発言権は頼もしく、アメリカを敵に回す可能性も小さくなりますし、英連邦に属すインドやアフリカ諸国との関係強化も見込めます。世界は、米・中・独仏・日英+印・ロシアの5ブロックに分割されるというわけです。

もちろん日本の最大の国益は、世界からあらゆる経済ブロックが消滅することです。しかし黙って座していてもどうにもなりません。イギリスとの海洋ブロック構築に乗り出すことは、地域ブロック化する世界への防衛策であると同時に、仮に実現しないとしても、イギリスにEU脱退をうながすことによりEUの弱体化と崩壊を引き起こし、ひいては世界のブロック化を阻止する一手となりえるのです。

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2013年01月18日

Too good to bear

ドイツは日本同様少子化に悩んでいます。出生率は1.34で、日本の1.39をも下回ります。2.0で人口維持ですから、これでは人口激減です。

そんなドイツで、なぜ子供を作らないのか、50歳以下の子がいない人たちにその理由を聞きました。するととても興味深い結果が出ました。

Was die Deutschen vom Kindermachen abhält

1位 「ふさわしい伴侶が見つからないから」40%
2位 「子を持つには若すぎると感じるから」39%
3位 「自分のために使える時間が少なくなるから」34%
4位 「自分の将来が見えないから」30%

ドイツ政府は10年前にも同じ調査をしたのですが、そのときの1位は圧倒的に「家計に余裕がないから」でした。だからドイツはそれ以来子育て支援を拡充し、2000億ユーロにのぼる予算を少子化対策につぎ込んでいます。

その結果今のドイツでは、子供を作ることによる負担増はほとんどなくなりました。しかし出生率は上昇しません。そしてその理由を聞いてみたら、今度は上のように解答されたというわけです。

この調査結果は衝撃的です。少子化はライフスタイルの問題であり、政府にできる対策はないということを示しているからです。ドイツには家族相が、日本には少子化担当相がいますが、彼らは無駄な仕事をしているのであり、国民のライフスタイルを強権的に改造でもしない限り子供は増えないのです。

子作りしないドイツ人たちの理由を見て、ドイツ人は自分勝手だと感じる人は多いと思います。しかし自分はそうは思いません。

上ににあげられた理由を反転して考えると、ドイツ人の子育て観が見えてきます。すなわちそれは、「子育ては、社会的に安定した地位を得た経験ある大人が、立派な伴侶を得た上で手塩をかけて行うもの」という感覚です。要するにドイツ人は、子供をとても神聖なものととらえており、自分勝手どころか、自分に子育てする資格はないと考えているフシがあるように思うのです。

これは日本でも同様です。子供は社会の宝であり、子に尽くす母は社会の鑑です。子供を作らない理由を聞かれて、「見通しの暗い社会に生まれてくる子供が可哀想だから」などと答える人がいて、それは白々しいと思うのですが、未来が暗いのではなく、子供が神聖すぎると考えると合点がいきます。子供は「too good to be born in this world」で、そんな宝を世話する責任は「too heavy to bear」、そして自分にその用意ができたと感じる頃には「too late to bear」なのです。

ドイツのお隣のフランスは出生率が2.0を超えていて、政府の手厚い子育て支援の成果だと謳われています。しかし、同じように手厚い支援をしているドイツで出生率が上がらないとなると、理由は別にあると言わざるをえません。

一説によれば、フランス女性は先進国で最も子供と接する時間が短く、子供を生んでもろくに世話しようとしない「DQN母」なのだといいます。親は自分の生活優先で、子供に合わせたりしないのがフランス文化です。子供と一緒に過ごすために生活スタイルを変えたり、子供の喜ぶ食事を作るのは論外で、誰もそれを問題視しません。

少子化になればなるほど子供は神聖視されがちですが、少子化を阻止するのはその逆ーー子供に対する無責任、「親はなくても子は育つ」精神のような気がしてなりません。

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2012年12月24日

電力輸出国ドイツの実体

脱原発と再生可能エネルギーへの「エネルギー転換」を進めるドイツは、電力不足に悩んでいるかと思いきや、実は電力の輸出が輸入を上回る、電力輸出国です。

「ドイツを見習え」派の人たちは、こういう話をドヤ顔で拡散します。しかし、電力は輸出超過ならいいというものではありません。

Polen wehrt deutschen Windstrom ab

「ポーランドがドイツの風力電力を拒絶」という、フランクフルター・アルゲマイネ紙の記事です。ドイツの電力輸出に対し、ポーランドやチェコが送電を停止するようドイツ側に求めているというのです。

ヨーロッパの国々は、国境を超えて送電網が張り巡らされており、水が高い所から低い所へと流れるように、電力は多い所から少ない所へと自動的に流れる仕組みになっています。ドイツを例にとると、ドイツ国内で電力が不足気味になると、周辺国で余裕のある所から電力が流れ込み、逆に電力が余ると、周辺国に溢れ出すわけです。

ドイツの場合、電力に余剰が生まれるケースが多く、その結果として輸出超過なわけですが、これに対して周辺国が頭を抱えているのです。なぜならば、電力というのは供給=需要でなければならず、電力不足で停電になるように、供給過剰でも停電になるものだからです。

エネルギー転換を進めるドイツは、脱原発を睨んで、風力発電や太陽光発電施設を続々と建設しています。ところが再生可能エネルギーというのは、発電量が一定しないという欠点を持ちます。天候しだいで、必要なときに十分に発電できないこともあれば、いらないときに無駄に多く発電してしまうのです。

再生可能エネルギーの割合が高いドイツでは、発電量の振幅が大きく、調整能力も限られています。需要を上回る電力を作れば事故になりますが、ドイツの場合余剰電力は周辺国に溢れ出します。結果として周辺国は、ドイツから押し売りされた不要な電力を処理するために、余計なコストをかけてこまめに発電量を調整するなど、電力の最終調整を強いられているのです。

ドイツとしては、周辺国の善意にタダ乗りするわけにもいかず、送電をコントロールする高価な設備を設置した上で、余剰電力を国内で処理する方策を見つけなければなりません。そしてそのためのコストは電気料金に上乗せされ、ただでさえ高騰している電気料金をさらに押し上げることになります。

ドイツ:再生エネ普及で電気代高騰、戸惑う国民 野党批判、首相「想定外」と釈明

ドイツの脱原発は、原発大国のフランスから電気を輸入できるから可能なのだとよく言われますが、それは正確ではありません。ドイツのエネルギー転換は、電力不足のときに輸入できるのに加え、電力余りのときに輸出できるからこそ可能なのであり、二重の意味で周辺国に依存しているのです。

最後に読者のコメントを紹介しておきます。

▽他国に迷惑をかけるわけにはいかんから、余剰電力は国内で意義あることに使わないとな。風力発電パークの前に「コモンセンス」と名付けたでかいロボットを作り、電力が余るとそこに電気が流れ、頭を抱える動作をさせるというのはどうだろうか?

▽それはすばらしい提案だ。ついでにでかいネオンサインも作ろう。電気が余るたびに、「ありがとうユーロ!」「ありがとうゴールドマンサックス!」「すばらしい政治家に恵まれて幸せだ!」「増税大歓迎!」「移民のみなさんのおかげで大儲けだ!」「極右追放!」「悪の原発追放!」とか煌々と点灯するのだよ。

▽ドイツのエコ発電はバッファーとしての周辺国あればこそで、周辺国の迷惑になるなんて予想できたことだろうに。すべての原因はドイツ側の思考停止にあるのだから、勝手な都合でバッファーにしている国々に迷惑料を払うのは当然だな。

▽「ドイツのエネルギー転換は世界のお手本」なんて主張は、エコ利権に絡んでいる奴らのポジトークとしか思えんな。わざわざ税金をかけて周辺国に迷惑かけるだけの余剰電力を作るなんて、ドイツは世界の笑いものだよ。

▽周辺国の主張は文句のつけようもなく正しい。そしてその費用はドイツの消費者に転嫁されるというわけだ。ドイツの政治家たちのお花畑ぶりは、いよいよ明白になりつつあるな。

▽われらの崇高なるエコ電力をいらんとは、ポーランド人とチェコ人はけしからんな。わざわざ深夜にプレゼントしているというのに…。

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2012年12月14日

ドイツほのぼのニュース

ドイツのヴェルト紙のサイトを見ていたら、なんだかほっこりするニュースを見つけてつい紹介したくなってしまいました。

Boris Becker erntet "Shitstorm" für Twitter-Meldung

記事のタイトルは、「ボリス・ベッカー、ツイッターで炎上」

ベッカーといえば、1980年後半〜90年代に活躍した偉大なテニス選手です。その彼が、EUのノーベル平和賞受賞によせてこんなツイートをしたそうです。

「すごいぞアンゲラ・メルケル!ノーベル平和賞優勝したせいで、誇らしくて愛国心燃えるぜ」

ノーベル平和賞を何かのコンペのように勘違いし、国家ではないEUの受賞に愛国心をくすぐられ、さらになぜかEU構成国の一首脳にすぎないメルケル首相を賞賛し、ついでに基礎的な文法まで間違えるという、幾重にも滅茶苦茶なツイート。これにドイツのインターネッターたちが呆れ、「バカに国家を否定されて愛国に目覚めたわ」「どうでもいいけどドイツに税金払えよ(*ベッカーは外国暮らししているのです)」などと炎上したのです。

で、そんなヴェルト紙の記事に対する読者のコメントはこんな感じです。

こいつは真性のバカだよ。バカランキングでローター・マテウスと1、2位を争うんじゃないか?

マテウスとベッカーの宿命のバカ争いは永遠に勝負つかないだろうな。それにしてもツイッターの瞬間バカ拡声器ぶりはすごいな。

おいヴェルト、ツイッターを見て記事を書くなんて楽な仕事だな。これが新時代のジャーナリズムってか?お前らの未来は暗いよ。

コメントに出てくるマテウスは、W杯最多出場記録をを持つ偉大なサッカー選手ですが、別れた妻から「良い人だけど、バカすぎて…」と言われるほどにオツムが弱く、相次ぐおバカ発言と監督としての無能ぶりから、ドイツでは筋金入りのバカとして知られています。

それにしても、この記事についてのあらゆる点ーースポーツ選手がバカなこと、ツイッターで馬鹿発言して炎上すること、ツイッターが馬鹿発見器として認識されていること、そして新聞サイトがそれを記事にして読者に呆れられていることまで、日本と何から何まで一緒で、妙にほのぼのとした気分にさせられてしまいました。

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2012年12月02日

中国は世界で平和を最も愛する大国

中国の新華社が次のように報じていました。

ドイツ紙は29日、「ここ数年、中国は自国軍事力の増強に乗り出しているが、中国は世界で平和を最も愛する大国であり、中日両国間で衝突が起こることは懸念していない」とのドイツのヘルムート・シュミット元首相の談話を掲載した。

同氏によると、「中国は大規模に軍備を拡張しているが、戦争する野心はない」という。11月29日、ハンブルクで開かれた独中経済会議でシュミット元首相は、「中国は世界で平和を最も愛する大国であり、これからのこの伝統は変わらない」と語った。

過去数年間、中国は軍事力の増強に取り組んでいる。先ごろ、初の空母「遼寧」を就航させたが、同氏は、「中国は他国を侵略した歴史もなければ、他国を殖民統治した歴史もない」と強調する。ドイツ国防長官を務めた経験もあるシュミット氏は、中日両国の領土紛争に懸念を抱いてはいない。

今夏、シュミット元首相は計12日間にわたって中国とシンガポールを訪問し、現在は中国に関する新書を執筆している。



伝えているのが新華社で、しかも当該記事に添えられた写真がシュミット元首相ではなく、なぜかシュレーダー前首相だったりするので、記事は捏造なのではと疑わしくなります。

しかしこの記事は事実を伝えており、シュミット元首相は確かに「中国は世界史上最も平和的な国だ」と発言し、ドイツでそう伝えられています。

"China ist das friedlichste Land der Weltgeschichte"

ドイツで最も尊敬されている、94歳になる御大のこんな発言を聞くと、「やはりドイツは反日親中か」と溜息を付く人もいるかもしれません。

というのもかつてのドイツは、明治維新以来の日本のドイツ愛にもかかわらず、基本的に日本に懐疑的で、ヒトラーの一存で日本と同盟を組むまでは、常に中国大陸の政権に肩入れして日本を困らせた過去を持つからです。

シュミット元首相は、そんなドイツの伝統を引く一人かもしれません。上にあげたDie Welt紙の記事にもあるように、彼は在任中から親中国として知られ、今年2月には、天安門事件について中国政府の対応を擁護する発言までしています。

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シュミット元首相といえばタバコです


しかし、ドイツ人の名誉のために強調しておきますが、シュミット元首相の姿勢は、決してドイツ人全般の声を反映していません。

かつてリニアモーターカー絡みで技術だけ盗られて馬鹿を見た経験を持つドイツは、ビジネスパートナーとしての中国に根深い不信を抱いていますし、ダライ・ラマ訪独の折には各地で大歓迎するなど、中国の覇権主義を容認しているわけでもありません。

「中国は世界で最も平和を愛する大国」というシュミット元首相の発言に対する読者の意見はこんな感じでした。

中国の膨張主義的ナショナリズムは、オスマントルコ復活を夢見るトルコのナショナリズムと同じくらいひどいものだ。シュミットのボケは痛々しいレベルだな。

シュミットは部分健忘症に違いない。中国は平和国家でなんかないよ。今の中国が戦争をしかけないのは、しても利益にならないからにすぎない。

ドイツ政界の長老なんて肩書きも風前の灯だな。シュミットのボケはもう堪えられない。年寄りが賢人とは限らないんだよ。

シュミットの戯言を神の言葉のように扱うマスコミに、王様は裸だって誰かそろそろ言ってやれよ。

シュミットは表に出てくるのをやめるべきだな。この前もテレビで、ギリシャ救済でドイツの納税者の負担はゼロだと主張してたぞ。完全にイカれてるだろ。

毛沢東が7000万人殺した国を世界一平和な国とはね。こんな主張聞かされると、他の発言も疑わしくなるな。

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2012年11月27日

歪んだ多文化主義

イギリスで、非常に興味深い事件が起きました。

里親として、7年前からマイノリティの子どもたちの面倒を見てきた50代の夫婦が、当局から突然里親不適格と判断され、一緒に暮らしていた子どもたちを取り上げられてしまいました。

Foster parents 'stigmatised and slandered' for being members of Ukip

その理由は、彼らが「イギリス独立党(UKIP)」の党員と判明したから。イギリス独立党は、EUからの離脱と移民の制限を訴える政党です。

問題の夫婦は、過去7年模範的な里親として活動していたといいますが、市当局から思想的にふさわしくないと判断されてしまったのです。

いかにも現代のイギリス、ヨーロッパらしい出来事です。この程度の出来事はヨーロッパでは日常ですから、これまでならニュースにすらなりませんでした。

ところが今回は違いました。この事件をニュースサイトが伝えると、イギリスのインターネッターは激しく反応し、BBCの当該記事は1000を超えるコメントを集めています。

私はUKIPの支持者ではないが、合法的な政党に勝手な烙印を押す地方政府は何様のつもりなんだ?子供から引き離すべきはこの里親ではなく、当局の方だ。

親による子供虐待は平気で見逃すくせに、里親の政治思想には即座に反応して子供を取り上げるとは…。イギリスの社会福祉は歪んでいると言わざるをえない。

私は白人で妻は黒人。間に2人の混血の子供がいる。移民問題に憂慮しているので、選挙では保守党かUKIPに投票しているのだが、私も子供を取り上げられてしまうのだろうか?

ニュースを読んで調べてみたら、案の定この町は労働党支配だった。労働党の地盤でよく見られる典型的な歪んだポリティカル・コレクトネスだな。

左翼の信奉する「多文化主義」は、実は所属する文化だけで人を測ろうとする単眼的思想だ。そんなものは実際には人種間の軋轢を深めるばかりで社会を分断し、犯罪を誘発するばかりなのに。

明白な政治的迫害だ。市当局は左翼的な開かれた社会を実現しようとするあまりに反動化し、下手なファシストよりもファシスト化している。

私はUKIPの支持者ではないが、UKIPは移民制限を主張しているだけで、人種差別的な主張などしていない。政治思想の違いで子供を取り上げるとは、この国の状況は深刻だ。

人種や宗教や政治理念で人を差別するのは違法だ。市当局は裁かれねばならない。偏狭な差別により、彼らは法を犯したのだ。

というわけで、コメント欄は当局への怒りと、多文化主義への批判で埋めつくされています。これほどワンサイドな左翼批判は、過去にはありえない現象で、「人が犬を噛んだ」ようなニュースと言えます。

ヨーロッパ各国の政治は、英労働党のような社民勢力と、保守勢力の綱引きで表向き動いています。しかし近年、社民と保守の政策にほとんど差はなく、ともに「ポリティカル・コレクトネス」という理念に囚われた同じ穴の狢と化してしまっています。

ポリティカル・コレクトネスというのは、人種差別を悪とし、ナショナリズムを危険視するような、20世紀の政治的常識のようなものです。「差別は悪」だけならいいのですが、時とともにそれは、「差別を糾弾するのは絶対正義」というドグマへと転化し、それに異を唱えるのは悪とする、抑圧装置へと変質してしまいました。

イギリス独立党は、左派系メディアからは「極右」と呼ばれることもありますが、コメント投稿者の指摘にあるように、彼らは極右ではありません。イギリスの真性極右「イギリス国民党(BNP)」の政策=国粋主義×移民排斥×保護主義を極右の三大条件とするなら、愛国主義×移民制限×リバタリアニズムのイギリス独立党は、右左では語れない斜め上を行く反ポリティカル・コレクトネス政党、異端と呼ぶにふさわしい性格を帯びています。

左右接近による政治選択肢の消滅と、それに伴うUKIPのような異端政党の登場は、イギリスだけでなくヨーロッパ各国で共通して見られるトレンドです。UKIPは今回の一件で全国的に名を轟かせましたが、ポリティカル・コレクトネスに対する違和感は、予想以上に広くコンセンサスを得つつあることを再確認させられました。

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2012年03月03日

政治先進国日本を猛追する世界

政治へのアパシーというと、日本のお家芸のような気がします。日本人は政治意識が低すぎる、アメリカやヨーロッパを見習えとさんざん言われてきたものです。

しかし最近の世界を見ていると、どこもかしこもあきらめムードで、むしろ日本はましな方ではないかと思えてくるほどです。

たとえば今アメリカでは共和党の大統領予備選が行われていますが、共和党支持者の多くはすでに共和党に絶望しており、ただ「オバマを倒せるなら誰でもいい」という観点から候補者を選んでいます。

民主党支持者も同様で、オバマ政権に幻滅しつつ、ただ「共和党に政権をわたしたくない」という観点からオバマを支持しています。

共和党の主流派は左傾化して民主党と同化し、オバマ政権はビッグビジネスの味方で共和党と変わりません。選択肢のない両派の一部は、茶会やオキュパイムーブメントなど、既存の政治システムの枠外で活動したり、または理想主義的リバタリアンのロン・ポール氏を支持したりしてもがいています。

しかし彼らの運動は、既存のシステムの枠外であるがゆえに非現実的になりがちで、現実の政治に対する影響は限られています。政策と理念の論争を欠く政治は、畢竟政局のみでまわるようになり、人々の政治への幻滅とあきらめは加速するばかりです。

欧州も同じです。かつてのドイツは非常に政治意識の高い国でした。しかしやはりここでも主要政党は総中道化し、同じような政策を掲げて同じ方向を向いているため、国民に選択肢はありません。そしてアメリカ同様に政治は政局オンリーになり、国民の総意とは乖離した方向に進んでいます。

今週の月曜日に、ドイツの連邦議会は1300億ユーロの第二次ギリシャ支援を可決しました。しかしドイツの国民はまるで納得していません。世論調査によれば、実に62パーセントのドイツ人はギリシャ支援に反対し、賛成はわずか33パーセントです。

Deutsche gegen Hilfen für Griechenland

多くのドイツ人は、今回の支援は壊れ瓶に水を注ぐようなもので、結局ギリシャを救済するのは不可能だと考えて反対しています。しかし政治家たちは危機を先延ばしにすることしか頭になく、超党派で可決してしまいました。

日本では仰ぎ見られている脱原発も同様です。国民を交えた議論を深めることなく、テクノクラートの独断で決められたものでした。

ドイツ人たちの政治不信は、次期大統領になると見られているヨアヒム・ガウク氏への圧倒的支持によくあらわれています。世論調査によれば、ドイツ人がガウク氏を支持する最大の理由は、ガウク氏がどの政党にも属さない、非政治的な人物だからです。

Die Bürger bejubeln die Lichtgestalt Gauck

第二次ギリシャ支援の審議では、こうしたドイツの政治状況を象徴するようなハプニングも起きました。国の運命を左右するような大きな事案であるにもかかわらず、ショイブレ財務相は審議中に密かに数独で遊んでいたのです。

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とはいうものの、多くのドイツ人はこの件についてそれほど大騒ぎしていません。しょせん政治はその程度のものだからです。

政治といえば政局のことで、政治に対するあきらめが支配する日本は、民度の低い遅れた国だと思われてきました。しかしどうやら遅れていたのは海外のほうで、ようやく追いついてきたようです。

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2012年02月25日

脱原発に愛想を尽かすドイツ人たち

ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙を見ていたら、ドイツの連邦ネットワーク庁所長のインタビューが出ていました。連邦ネットワーク庁というのはインターネット関連の官庁ではなく、電力全般を統括する官庁です。

„Es wird zu früh Hurra gerufen“

インタビューは、この冬のドイツの電力事情を総括する内容です。日本の新聞の中には、この冬のドイツは原発大国のフランスに電力を輸出して、脱原発/自然エネルギーの有効性を示したと伝えるものもありました。(→脱原発でも電力輸出超過 再生エネルギー増加で)

ではドイツの監督省庁の見解はどうなのか?マティアス・クルト所長は、次のように述べています。

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…エネルギーシフトにのぞむにあたり、ドイツはここまでとてもよく対処しています。しかし、だから大丈夫と考えるのは早計です。厳しい冬を乗り越えた今だからこそ油断大敵で、気を引き締めてかからなければなければなりません。

…エネルギーシフトの成功を喜ぶのは少し早すぎます。まだドイツの電力のおよそ6分の1は原発によるものです。エネルギーシフトの本当の試練は、これらの原発を稼働停止しはじめてから始まるのです。われわれは、今後10年かけて大変な問題に取り組んでいかなくてはなりません。

…自然エネルギー施設の拡充方針に反対する人はいません。しかし問題は建設地の確保で、特に南ドイツでは不足しています。現在建設中の発電所では不十分なのです。すべての関係者には、この冬の経験を通じて新規建設の必要性を認識して欲しいと思います。

…今多くの人は、ドイツが数週間フランスに電力を輸出したと喜んでいます。しかし2011年全体でみれば、ドイツはフランスに対してかつての電力輸出国から輸入国へと転落しています。都合のいい数字ばかりではなく、事実を見つめるべきです。

…極度の寒波とガス輸送の停滞により、予想を超えた困難に直面しました。…非常に逼迫した状況で、数日間は予備電力に頼らねばなりませんでした。万が一の場合もう後がないわけで、極めて異例な措置でした。

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すでにこのブログでも何度か伝えたように、ドイツは一時的にフランスに電力を輸出したものの、その後深刻な電力不足に見舞われていました。クルト氏は穏やかな口調で、日本では伏せられているその事実を認めています。

ではドイツの人たちは今回の電力危機をどう見ているのか?読者の支持が高いコメントをいくつか紹介します。

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◆エネルギーシフトの失敗は日毎に明らかになるばかりだ。ドイツの電力は限界で、電気代の値上がりもひどい。なにより雄弁に失敗を物語るのは、プロパガンディストがほんの小さな成功に大騒ぎして、プロジェクトの成功を声高に語るところだ。たまたま天気に恵まれて、ほんの少しフランスに輸出しただけだというのに。

◆私の知る限り、2011年にフランスから輸入した電力は約18000GWhで、輸出は140GWhだ。これは輸入超過なんてレベルではなく、130倍もの差だ。だがドイツの政治家とメディアは、エネルギーシフトに疑いを持たせる数字は語ろうとしない。

◆バイエルンではすでにエネルギーシフトは破綻している。原発の半分を停止したため、電力はチェコとオーストリアからの輸入頼み。州政府はガス発電所を建設しようとしているが、自然エネルギー優先政策のせいで採算が合わないとドイツ企業は撤退し、今はロシアのガスプロムと交渉中。外国頼りで不安だ。しかも新規発電所の稼働は残りの原発の稼働停止に間に合わないとくる。

◆エネルギーシフトなんていうのは、素人をその気にさせるためのコピーにすぎない。ドイツは輸出工業立国であり、安くて安定した電力はその命綱だ。ドイツの存亡に関わる重大な問題をエコロビーに任せるべきではない。プロの判断を仰ぐべきだ。

◆かつてのドイツは一流の電力産業と一流の原発を有し、安くて安全な電力を生み出していた。だが政治家のゲームに滅茶苦茶にされてしまった。本当の悪夢はこれからだ。

◆つい最近までエネルギーシフトを熱く語っていたやつらはどこに隠れたんだ?天候次第では停電してたんだから仕方ないか。巨額の税金をつぎこんだのに風力と太陽光発電は見込みの2割しか発電せず、そのくせ電気代は去年から2割増しだ。そろそろバカなことはやめるべき時だ。

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フランクフルター・アルゲマイネ紙はドイツを代表するセンターレフトの高級紙ですが、記事によれせられたコメントのほとんどは「反エネルギーシフト」でした。

ドイツでここまで反原発派が衰退している理由は、この冬の電力危機はもちろんですが、日本からのニュースの影響もあると感じます。

福島第一で事故が起きたとき、ドイツのマスコミは、チェルノブイリを凌駕する大事故としてセンセーショナルに伝え、それでエネルギーシフトを決めた経緯があります。ところがここまでのところ日本で犠牲者は出ていません。

もちろん放射能の最終的な影響は時間がたたないとわかりません。しかし、ドイツの国民に阿鼻叫喚の地獄絵図を描いて見せてしまった手前、今さら「影響はこれから」などと言説を変えてもオオカミ少年にしか見えないのです。

日本人に劣らず両極端に走りやすく、しかも一度決断するといやに迅速に行動するドイツ人のことですから、あるいは「ドイツ情勢は奇々怪々なり」ということもあるかもしれません。

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2012年02月24日

移民問題に対するドイツ人の本音

この木曜日、ドイツの首都ベルリンでネオナチの犠牲者を追悼する式典が行われました。式典にはメルケル首相をはじめ各界の有力者が顔を揃え、全国で黙祷が捧げられました。

独首相、ネオナチ殺人犠牲者を追悼 遺族には謝罪

2000年から2006年にかけて9人のトルコ人移民を殺害した犯人グループは3人。外から見ると、ネオナチというよりは異常者による連続殺人にしか見えませんが、去年の11月に事件が発覚すると、マスコミは連日事件を大きく伝え、警察は大がかりな捜査を行い、全ドイツを揺るがす大騒動になりました。

メルケル首相は式典で、事件を「ドイツの恥」と呼び、極右を糾弾し、国民に不寛容との戦いを呼びかけました。

過去に学び、外国人差別と真摯に向きあうドイツの図です。こういうのを見ると、エネルギー政策でも同様ですが、必ず「日本もドイツを見習わなければ」と言い出す人がでてきます。しかし、一見立派なファサードは、決してドイツ人の本音ではありません。

式典を伝えるフランクフルター・アルゲマイネ紙の記事によせられたコメントの中から、読者の支持が高いものを紹介します。

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◆どうして移民に殺されたドイツ人の追悼式はないんだ?ドイツ人は永遠に悪者でとにかく反省しろってか?

◆ドイツ人が移民に殺されると犯人はドイツ人扱いされて移民であることは隠されるのに、ドイツ人が移民を殺すと犠牲者は異民族扱い。あきれたダブルスタンダードだよ。

◆この事件は「ドイツの恥」なんかじゃない。責められるべきは犯人と捜査当局で、8千3百万人のドイツ人には何の罪もないよ。式典で善人面する捜査責任者たちは盗人猛々しいな。

◆ただの連続殺人を大げさにとらえすぎだろ。アフガンで死んだドイツ兵には黙祷なんか捧げないのに。

◆移民によるドイツ人犠牲者は無視して、極右の犯罪には大騒ぎ。長年の「右=悪」の刷り込みの効果だな。まるで宗教だよ。

◆右翼が犯罪を犯すと大騒ぎだが、左翼が犯罪を犯しても「若者の悪乗り」扱い。過激派は右も左も変わりなく社会の脅威なのに。

◆ドイツに表現の自由はない。みんなが本音で議論していれば、エリートの甘言に騙されて移民なんか受け入れなかったし、事件も起きなかったのに。こんな感傷的な式典開いたって、なにも解決しないよ。

◆極右の犯罪は許されないが、移民に正当な異議を唱えただけで極右扱いされる雰囲気がある。言論の自由が侵されないか心配だ。

◆この国は「東ドイツ2.0」だよ。家族の前でも本音を話すと告発されかねない。

◆オレの出身校はオレがいた頃はイスラム系の生徒は一人だけだったが、いまは3分の1がイスラム系だ。多元主義は美しい理想だとは思うが、この国は極左の団塊世代に壊されたと思わざるをえないな。

Merkel: Sie stehen nicht länger allein mit Ihrer Trauer
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実は先日おきた大統領の辞任騒動の裏にも、移民問題が見え隠れしていました。ヴルフ前大統領は、「イスラム教もドイツの一部である」と発言するなど、イスラム移民よりの存在と見られていました。トルコを訪問したときなどは、「アンカラに指令を受けに行く」と揶揄されたりしたものです。

もともとパッとしない人柄にくわえて、深刻な移民問題を教科書的にしか語れないところが、彼をより国民から遠ざけたことは間違いありません。

それに比べて次期大統領に内定しているヨアヒム・ガウク氏は、2年前に移民の脅威を告発する著作「ドイツは滅亡する」を出版したザラツィン元ドイツ連銀理事について、「勇気ある行為」として理解を示した過去を持ちます。

そんなガウク氏は、ドイツ国民から圧倒的に支持されています。

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2012年02月19日

ドイツの大統領が辞任した理由

先日、ドイツのヴルフ大統領が辞職しました。理由は汚職疑惑です。とはいうものの、たいした汚職ではありません。政治家なら叩けば誰でも出てくるだろう程度の汚職です。

ドイツ人はどんな小さな汚職も許さないというわけではありません。日本に比べれば桁外れに厳しいことは確かですが、過去には汚職を大目に見られた大統領もいます。

ではなぜ地位を追われたのかというと、下の辞職会見の写真はその理由をよく表しています。目立つのは若くてきれいな妻のベッティナさんで、大統領は優等生官僚にしか見えません。言動もその見かけどおりの彼は、ようするに大統領の器ではないのです。

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汚職疑惑が浮上したとき、彼は「ビルト紙」の編集長や経営者に電話をかけ、大騒ぎしないように圧力をかけました。中道保守大衆紙のビルトと中道保守政治家である大統領は、本来分かり合えるはずでした。しかし新聞社に彼を庇おうという空気はありませんでした。ビルト紙は圧力を無視し、逆に反ヴルフキャンペーンを開始しました。

ビルト紙のキャンペーンは、ベッティナさんの元売春婦疑惑を伝えたりと、品性に欠けるものでした。しかし、ビルト紙を蔑んでいたはずの知識人たちは冷静な議論を呼びかけたりせず、「こうなるのも仕方ない」とリンチを放置しました。

ドイツの大統領は、ワイマール共和国時代に政治混乱を招いてナチスの台頭を許した経緯から、政治的に何の実権もない名誉職です。それだけに、大統領には「サムバディ」であることが求められます。

普通の政治家なら、人格はともかく仕事ぶりで勝負できます。しかしドイツの大統領は仕事で勝負できないので、人徳で勝負するしかありません。とにかく「何者か」であることで、国民から慕われるしかないのです。

そういう立場の人が徳を示せないとどうなるかを、ヴルフ大統領の転落は表しています。免疫機能の低下した人間が風邪をこじらせて命を落すように、ほんの小さな失点からダムは決壊し、あげくに大統領職そのもののステータスまで失墜させるに至りました。

ドイツの大統領と同じ立場である日本の皇室も同じです。今上天皇は徳の塊ですから何の問題もありません。さらに皇室には歴史と伝統もあります。しかし、徳を感じさせず、さらに自ら伝統を軽んじるような人物がその地位につけば、皇室といえどもどうなるかわかりません。

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2012年02月16日

電力危機を嘆くエコの国の人々

ヨーロッパの大寒波に際し、ドイツからフランスに電力輸出が行われたことが、日本では一部で自然エネルギーの勝利のように伝えられましたが、やはりそんなことはないようです。

ドイツの「フォーカスオンライン」が、予備発電所をフル稼動して大停電の危機にありながら、フランスに電力を輸出していたドイツの電力事情についてあらためて解説していました。

Wis sicher ist die deutsche Stromversorgung wirklich?(ドイツの電力は本当に大丈夫なのか?)

記事によれば、フランスに電力が輸出された日は、たしかに北ドイツで自然エネルギー発電による余剰電力が生まれていたといいます。しかし同時に、南ドイツは深刻な電力不足に陥っていました。北から南へ送電しても、送電ロスが大きくなるばかりで不足分をカバーできません。そこで、南ドイツとオーストリアにある予備発電所を稼動して電力不足を補い、北ドイツの余剰分はロスの小さいフランスに輸出したのです。

というわけで、ドイツは余裕があって輸出したわけではぜんぜんありませんでした。だからその後天候が悪化すると、すぐにドイツは電力輸入国に転じてしまいました。今回は、最も寒波がひどいときに、たまたま好天に恵まれたために救われただけで、もし天気が悪ければ、ドイツはブラックアウトしていたのです。

脱原発を決めたドイツでは、2022年までに残された9箇所の原発をすべて停止する予定ですが、今回の電力不足で露わになったのは、お天気と予備発電所だよりの状態は今後も続くということで、これという解決策はないそうです。

記事によせられた「エコ先進国ドイツ」の中の人たちの声をいくつか紹介しておきます。

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原発廃止までまだ一山も超えてないないのにこんなことになるなんて、気が重くなるな。

停電してもいいじゃないか。それでエコ原理主義者の目が覚めるなら。

エコ原理主義者は停電したって目を覚ましたりしないよ。

ヒトラーでさえドイツを滅ぼせなかったが、エコイデオロギーはドイツを滅ぼすよ。世界を道連れにね。

エコはすっかり中傷語になっちゃったな。残念だよ。エネルギー転換を急ぎすぎたんじゃなくて、まじめに議論して来なかったツケなのに。

放射能汚染を避けて滅ぼうぜ!

ドイツの電力は、年金と同じくらい安心だな。

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2012年02月15日

Kポップのドイツ征服

マスコミの芸能記事というのは、通常プロモーターがネタを持ち込みます。ネタに共感できる場合、ライターは嬉々としてヨイショ記事を書きます。ネタに共感できず、しかもさまざまな理由でボツにもできない場合、たいていのライターは仕事と割り切り、プロモーターの宣伝文句そのままに、定型文を重ねてお茶を濁します。しかし骨のあるライターは、プロモーターを満足させるように表面を繕いつつ、自分の意見を編み込みます。

ドイツの新聞で、そういう記事を見つけました。記事は「BEAST」というボーイズグループのベルリン公演を前にして、Kポップの魅力を伝える内容です。一見するとただのプロモーション記事なのですが、よく読むとかなり辛辣な含みを持たせた文章です。

Schön frisiert und wohlerzogen

記事のタイトルは「きちんとしていて品行方正」。「Kポップの歌手はみんないい子で、不良に見えても好青年なの」というファンの声からタイトルをつけています。ポップ・グループの売り文句としては、これだけで嫌味な感じがしないでもないですが、行儀の悪いアイドルが多い欧米では、必ずしもマイナスポイントとはいえません。しかし記事を読み進めていくと、このタイトルが違う響きを持ち始めます。

記事では、Kポップファンは韓国人だけではないと語り、ベルリン在住のKポップファン、エスター・クルンクさんを紹介します。ところがこのクルンクさんの熱狂ぶりを伝える描写がへんです。

彼女はベルリンのKポップシーンの中心にいる。ファンクラブの会員約150人は、在ベルリンの韓国人が3000人であることからして少なくない数であり、メンバーは着実に増えていると彼女は語る。31歳のクルンクさんは韓国文化に魅せられている。彼女は韓国大使館の文化センターでボランティアとして働き、ファンクラブのミーティングを企画、主催している。さらに彼女はオンラインマガジンのwww.k-magazin.comを立ち上げ、韓国の文化、音楽、映画、文学について伝えている。去年の8月には、ドイツで初のKポップナイトを開催し、11月にはKポップコンテストを開催した。いずれもライプツィガープラッツの韓国文化センターで行われたものだ。「トリアーから来た23歳のコンテスト優勝者は、バックダンサーとして韓国に招待され、Kポップワールドフェスティバルに出演しました」とエスター・クランクさんは語る。

クルンクさんはドイツの外にも活動の網を広げている。スイスの友人とともにスイスでKポップフォーラムサイトを立ち上げ、去年から「最も愛されている賞」を発表している。ネット投票で最も人気のあるKポップバンドを決めるのだ。「毎月50万のビジターがいて、7万5千人が投票しました」とクルンクさん。

ここまで書くと、彼女はただのファンではないと言っているようなものです。どう見ても彼女は、韓国文化センターのエージェントです。

この後記事は、ユーチューブで6000万回再生を記録したことなど、BEASTとKポップの偉業を滔々と語り、終盤にさらりとこう書きます。

Kポップファンはたいてい非常に若く、よく組織化されている。フェイスブックを通じて、ハンブルク、シュツットガルト、ベルリンでファンミーティングが行われ、去年の夏にはポツダマープラッツとアレクサンダープラッツ、ブランデンブルク門で、若い娘たちが踊るフラッシュモブが行われた。このブームは、韓国文化を世界市場に売り出したい韓国政府から支援されている。韓国政府は、ポップカルチャー産業のために専門の部署を創設した。歌手たちは早いうちからコンテストで発掘され、システマティックに育成される。

こうなるともう明白で、筆者はKポップを、国家により推進され、隠れエージェントを軸として組織的にステマされる胡散臭いブームであると告げているのです。そして歌手たちは、「schön frisiert=きれいにトリムされ」「wohlerzogen=念入りに育成された」お人形というわけです。

ただ筆者は、直接Kポップを批判するような言葉は一切使っていません。そしてその一方で、あたかもプロモーターからもらった資料をそのまま書き写したかのように、Kポップの躍進ぶりを書き重ねています。だからKポップのファンは、「ドイツの新聞にのったー!」と喜んでいるようです。

「何だかなー」と感じたときの各国の反応は違います。日本人はとりあえず笑顔を繕い、アメリカ人は無視し、イギリス人はお下劣な皮肉を、フランス人はお上品な皮肉をあびせます。それで行くと、ドイツ人は感情をそのまま口にせず、事実を組み上げることで皮肉を表現するというところでしょうか。

というわけで、Kポップのドイツ侵略は厳しいスタートを切りました。しかし見通しは暗くありません。すでに征服を終えた日本に無駄に投入し続けている宣伝リソースをドイツに振り向ければ、欧州制圧はもう目の前です。

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2012年02月14日

ドイツからフランスへの電力輸出について

こんな話が伝えられていました。

独の脱原発を笑ったフランス人がドイツから自然エネルギー輸入

グリーンなサイトの伝えることですから、こういう論調になるのは仕方ありません。だから注釈を入れておこうと思います。

たしかに今フランスはひどい電力危機で、ドイツをふくむ周辺国から電力をドカ買いしています。ドイツよりも温暖なフランスは、予期せぬ寒波の到来にパニック状態となり、電気暖房を主とするフランス家庭ががんがんエアコンをつけ、電気需要が予想を上回ってしまったのです。

日本でいえば、ドイツは北海道で、フランスは関東地方のようなものです。毎年零下10度を体験している地方が零下20度の寒波に襲われても想定内でしょうが、関東地方が零下15度にでもなれば、いろいろと問題が起きるのは当然です。原発とか自然エネルギーとかの問題ではないのです。

記事中にある「フランスの電力市場は1キロワット時あたり34セントと、ドイツ市場のほぼ3倍だ」というのは、電力のスポット価格のことで、電気料金のことではありません。電気使用量が過去最高を記録したフランスでスポット価格があがるのはあたり前で、ドイツの電気料金はフランスよりもずっと割高です。

さて、この記事で引用している「フォーカスオンライン」の元記事というのは、たぶん次の記事だと思います。

Trotz Eiseskälte exportiert Deutschland Strom(寒波にかかわらずドイツは電力を輸出)

このニュースは、ドイツでもかなり大きく伝えられたそうです。緑の党を中心とする左派のみならず、いまや政府の方針である脱原発はドイツの国是ですから、脱原発を肯定するようなニュースはファンファーレとともに伝えられる傾向があるのです。

ところがこの記事のコメント欄を見ると、下記のような書き込みがあることに気づきます。

本当?すでにオーストリアの2基の予備発電所を稼働し、さらにバーデン・ヴュルテンベルク州の予備発電所も稼働させたのに?

このコメントは嘘ではありません。脱原発を決めたドイツは、万が一の電力不足に備えて、いくつか予備発電所を持っているのですが、今回の寒波ではそれをすべて稼働させています。ドイツの電力が背水の陣であることは、いくつかの新聞が伝えています。

Deutschland vor Blackout(ドイツに停電の危機)

Deutschland muss Reservekraftwerke zuschalten(予備発電に頼るドイツ)

ところがこちらのニュースはあまり大きく伝えられず、とくにテレビはガン無視しているので、この報道に接したドイツ人たちは「フランスに輸出してるんじゃなかったの?どういうこと?」「フランスに輸出してると大騒ぎしといてこれとは、とんだギャグだな」と困惑し、あきれています。

今回の異常寒波では、フランスもドイツも電力が不足しており、独仏国境地帯で一時的にドイツからフランスに電力が輸出されたものの、ドイツはぜんぜん余裕ではないのです。

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2012年02月08日

呪われた国ドイツ

デフォルトの危機に瀕するギリシャに、ドイツは最後通牒を出しました。厳しい緊縮策を呑まなければ、債務軽減と援助はしないという内容で、木曜日にも結論が出るということです。

破綻するにせよ援助するにせよ、浪費家のために損害を被ることになるドイツ人からすればたまりません。しかしどうしたわけか、ギリシャ人はドイツ人に憎悪をたぎらせています。

財務を監視する「総督」を置くことを条件とするドイツの要求を、第二次大戦のギリシャ侵略の再来ととらえ、ドイツ人観光客を冷たくあしらい、メルケル首相をヒトラーに模した風刺画を量産しているのです。

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ドイツ人は、男も女も軍服がよく似合うなーということはおいておいて、ドイツを侵略者と見るのはギリシャだけではありません。やはり破綻の危機に瀕するイタリアも同様です。

客を見殺しにして逃げた沈没船の船長にかけて、危機と向きあおうとしないイタリア人のヘタレぶりを匂わす記事を書いたドイツのシュピーゲル誌に対し、イタリアの新聞は、「なるほどオレたちゃダメ船長だ。だがオメーらはアウシュビッツをやったじゃねーか!オメーらの方がずっと問題なんだよ。昔も今もな!」とブチ切れました

遊び人たちの借金を肩代わりしてやろうというのに、感謝されるどころか逆ギレされるドイツ人の気持ちを思うと、不憫でなりません。しかし、実のところギリシャ人やイタリア人の主張にも一理あります。

ユーロというのは、これまでは月限度額20万円のクレジットカードしか持てなかった人に、限度額500万円の家族カードを与えてしまったような制度です。生まれついての遊び人である南欧諸国は、それでついつい使い込んでしまいました。ーードイツの製品を買うためにです。

ドイツは、浪費癖のある国々にカネを貸して、それでドイツ製品を買わせて、自国の経済をぐるぐるとまわしていたのです。おかげでドイツは、このご時世に失業率がとても低く、税収も史上最高レベルです。いわばユーロはドイツが他国を搾取するためのシステムなわけで、あげくに国家主権まで侵されたら、侵略者とも呼びたくなるというものです。

しかしユーロというシステムは、なにもドイツ人が望んでまわりに押し付けたものではありません。それどころか、強大なドイツの復活を防止するために作られたシステムです。それなのに、なぜかドイツは一人勝ちし、優等民族きどりの危険国呼ばわりされるはめとなってしまったのです。

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2012年02月01日

フランスのベビーブームについて

先日、毎日新聞がフランスの「ベビーブーム」について伝えていました。

フランス:プチベビーブーム 4年連続、出生率「2」超え

フランスは、国家による手厚い出産・育児支援で知られており、この記事でも高出生率の理由として、「フランスにおける育児と仕事の両立のしやすさ、手厚い出産奨励策などが低出生率に悩む日本など他の先進国との違い」と、フランスの専門家に語らせています。

この記事を読んで、「少子化の日本もフランスのように手厚い出産・育児支援をすれば子は増えるに違いない」との印象を持つ人は少なくないと思います。

しかし、子を産み育てるというのは、社会の文化に深く根ざした問題で、政府が笛を吹けば、それに合わせて女性が子供を増産し始めるという発想は、いささか短絡的すぎるように思います。一国の出生率のような問題は、政府の政策だけでなく、ひとつの生命体としての社会のうねりを見ることなしには語れないはずです。

たとえばフランスの場合、かの国の人口動態が、歴史的に見てきわめて特異な変遷をしてきたことは、あまり知られていません。日本を含むその他の先進国では、産業革命による科学技術の進歩にともない人口が急増し、第二次大戦後にベビーブームを迎え、1970年代から人口増加にブレーキがかかるという共通パターンを描いています。しかしフランスは違います。

フランスの人口動態について非常に詳しく書かれている英語版のウィキペディアによれば、フランスの人口動態は、1800年頃から、他の欧州諸国と著しく違う動きをし始めました。

Demographics of France

18世紀のフランスは、欧州ではロシアを超える人口大国で、世界でも中国とインドに次ぐ人口密集地帯でした。しかし19世紀に入ると、農業革命と医療の進歩により人口爆発を迎えたイギリスやドイツとは対照的に、なぜかフランスは長い少子化に突入したのです。もし1815年以降のフランスの人口増加率がイングランドと同じであれば、現在のフランスの人口は、1億5千万人を超えていたと見積もられています(実際には6千3百万人)。

第一次大戦と第二次大戦の戦間期には、ついに人口増加率は事実上のゼロとなりました。ここに至り、フランス政府は動きました。積極的な移民の受け入れと、出産支援を開始したのです。フランスの出産支援は昨日今日始められたものではなく、1939年に制定された「家族法」以来、70年以上にわたり続けられている取り組みなのです。

しかし、その効果については微妙です。第二次大戦後のフランスはベビーブームを迎えましたが、それは他国でも起きたことです。また、1970年代以降は他国同様に出生率が低下し、1990年代初頭には、むしろ他国よりも大きく落ち込みました。

その後フランスの出生率は再び上昇に転じ、今日に至ります。毎日新聞の記事は、その経緯を次のように説明します。

出生率は64年の2.91以降、低下傾向が続き、94年に1.66を記録した後、上昇に転じた。仏国立人口研究所は回復の要因として、(1)男女平等意識の浸透や育児休暇制度、保育施設の拡充などで女性の子育てと仕事の両立が容易になった(2)子どもの多い家庭を優遇する手当と税制度(3)結婚より手続きが簡単で、ほぼ同等の税控除などを受けられるパクス法の制定(99年)で婚外子が増えた−−ことなどを挙げる。

しかし以上は、自分たちの存在理由を肯定する見立てしかしない役所の見解ですから、差し引いて見なければなりません。フランスの出産支援は昔からある制度ですし、婚外子を奨励するパクス法の効果についても、出生率はそれ以前から上昇に転じていました。また90年代の後半には、フランス以外の欧州各国でも出生率は上昇に転じていました。こうした全体図から見れば、出生率上昇の理由を政府の取組みのみに求めるのは、強引すぎるように思います。

そして移民の問題があります。すでに述べたように、フランスは20世紀の初頭から、人口補填策として移民を迎え入れてきました。当初は欧州各国から、戦後は北アフリカを主とする旧植民地から、大量の移民を受け入れました。2008年の統計によれば、フランスには約1200万人の外国生まれの移民家族が暮らしています。

こういう状況ですから、フランスの高出生率は、子だくさんな移民によりゲタをはかされているのではないかという疑問は当然出てきます。

1991年から98年にかけて行われた調査によれば、移民の女性は、純正フランス人女性にくらべて、0.4人ほど多くの子供を産みます。特に移民全体の約半分を占めるイスラム系の移民は出生率が高く、モロッコ系2.97、チュニジア系2.90、アルジェリア系2.57、トルコ系は3.21と子だくさんです。また2008年の調査によれば、新生児の28.45パーセントは両親か片親が移民、とくにパリがあるイル・ド・フランス地域圏の新生児の55.68パーセントは移民の子です。ーーこうした数字をどう解釈するかは、今回のエントリーの主旨ではないので保留しておきます。

というように、人口問題における日本とフランスは、歴史的、構造的にあまりに違いすぎます。フランスという文化体は、過去200年間日本とはぜんぜん異なるうねりで生きてきたのであり、こうしたコンテキストを無視して、政府の出産支援だけに注目するのは、あまり意味のないことだと思います。

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2012年01月05日

増殖する頑迷

ドイツのヴェルト紙によれば、イスラエルでユダヤ教原理主義者が台頭しているそうです。

Wie Frauen aus der Öffentlichkeit verbannt werden

イスラエルというのは、ユダヤ教を柱として建国された国ではありますが、とても世俗的な国です。テルアビブでは毎年盛大なゲイパレードが開催されますし、男女平等に徴兵されるため、ネットではキュートな女性兵士の産地として知られていたりと、まあそれくらい性差別のない開かれた国であり、イスラエルの強さはそこにあるわけです。

ところが、近年伸長している超正統派ユダヤ教徒と呼ばれる原理主義者たちはとても頑迷で、とくに女性差別は徹底しています。たとえば女性が原理主義者とバスに乗り合わせると、後ろの席に座れと言われ、無視して前の方に座ると、「売春婦め!」だの「身の程を知れ!」などと罵倒されるのだそうです。なぜなら、彼らによれば、女性の姿は男に邪心を抱かせるからです。

広告に女性が出るのもご法度で、へたに女性を使おうものなら、原理主義者から激しくバッシングされます。おかげで広告屋の自主規制により、今やエルサレムの広告は、キッチン用品だろうと育児用品だろうと男性モデルを起用し、女性モデルの姿は消えたそうです。

奇矯な原理主義者は昔からいました。しかしかつては世間から「アブナイ人たち」扱いされて、所詮それだけの存在でしかありませんでした。ところがいつの間にか勢力を増して、いよいよ社会のあり方を変え始めているのです。なぜだと思いますか?

彼らの繁殖力がハンパないからです。

原理主義者たちは、女性を家に閉じ込めて、子作りに専念させます。だから彼らの出生率は、世俗的なイスラエル人の3倍にもおよぶ10パーセントにも達し、猛烈な勢いで増殖しているのです。現在、全人口における原理主義者は1割ほどですが、小学1年生に限れば3割近くが原理主義者という状況で、年々人口比率を拡大しているのです。

イスラエルは建国の経緯から、原理主義を弾劾できない(原理主義を否定すると自らの存在意義を否定することにもつながる)という特殊な事情を持ちます。また、人口も700万人程度と小ぶりなことで、原理主義者の繁殖アタックの影響を受けやすいのだと思います。しかし考えてみれば、イスラエルで起きているようなことは、イスラエルほど急激ではないにしろ、世界中で起きています。

女性の社会進出が進むオープンな社会は一様に出生率が低く、その一方で、女は成人したらすぐに親が決めた相手に嫁にやり、子作りマシンとなることを強制するような文化の人たちは、ばんばん増殖します。少子化は先進国に共通する悩みで、ヨーロッパ各国は子育て援助に力を入れていますが、それで一番繁殖するのは、増えて欲しくない異文化の方々だったりします。

結局あまりに寛容でものわかり良すぎるのは、種を保存するうえでマイナスであり、淘汰される運命なのかもしれません。

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2011年12月23日

トルコ人のプライドと歴史

フランス下院が、アルメニア人虐殺を公の場で否定することを禁じる法案を可決し、これに対してトルコが激怒しています。トルコのエルドアン首相は、駐フランス大使を召喚し、政治、経済、軍事面におけるフランスとの協力を停止すると宣言しました。

アルメニア人虐殺は、第一次大戦中の1915〜1917年に、オスマン帝国のアナトリア東部で起きたとされる事件で、汎トルコ主義を奉じていたオスマン政府により、通説では150万人のアルメニア人が計画的に民族浄化(ジェノサイド)されたとされています。

しかしトルコ側は、これをジェノサイドと認めていません。トルコ側の見解は、当時の敵国であるロシアとフランスに扇動されたアルメニア人が「大アルメニア」を建国するために武装蜂起し、オスマン政府はこれを鎮圧したのであり、戦闘の過程で30万〜50万人のアルメニア人が死亡したのは戦争の悲劇ではあるが、トルコ人に道義的責任はないというものです。

今回フランス下院で可決された法律は、150万人虐殺説を否定した場合、たとえ歴史学者であろうと、1年以下の懲役と45,000ユーロの罰金を課せられるという内容で、今後上院に送られそこで可決されると成立します。

アルメニア人虐殺をトルコ人はどう見ているのか、在ドイツトルコ人のニュースフォーラムなどから、Q&A形式にしてまとめてみました。

Q ホロコーストを認めているドイツ人に見習い、トルコ人もアルメニア人虐殺を認めるべきではないか?

A アルメニア人虐殺とホロコーストを同列に語ることはできない。第一に、ユダヤ人は武装蜂起したわけではないが、アルメニア人は武装蜂起し、オスマン政府はこれを鎮圧したのである。またホロコーストは証拠も証人も豊富だが、アルメニア人虐殺については何一つ確固とした証拠がない。伝聞だけで罪を認めるわけにはいかない。

Q 国際社会では犠牲者数150万人で決着が着いているが?

A 当時東部アナトリアに居住していたアルメニア人は125万人だ。現在でも多くのアルメニア人が暮らしている。一体どうしたら150万人殺せるのか教えて欲しい。

Q アナトリアには、大量の犠牲者を埋めた塚が残るが、あれは証拠ではないのか?

A あれはトルコ人犠牲者の塚だ。アルメニア人の武装勢力は100万人のトルコ人住民を虐殺した。トルコ共和国建国後に完全に鎮圧されたアルメニア人は、以来自分たちが犯した虐殺の跡をトルコ人の仕業と主張し続けているのだ。

Q トルコ人は、トルコ政府の情報操作により洗脳されているのではないか?

A トルコ政府は、アルメニア人虐殺についてすべての情報を開示している。トルコの歴史学者は御用学者ではなく、ジェノサイド説をとる歴史学者もたくさんいる。一方アルメニアとフランスは、当時の公文書を現在でも非公開としている。情報操作しているのはどちらだろうか?

デジャヴ感溢れる状況です。歴史をめぐる問題には、ユニバーサルなパターンがあるようです。ただトルコ人は日本人以上にプライドが高いようで、アルメニア人ロビーにより外国の議会がトルコ非難決議をするたびに、強く抗議してきました。

日本もトルコのようにすべきと言いたいところですが、トルコさんは強く抗議し続けて100年もたちます。譲歩しようと強気に出ようと、歴史問題は解消しないのです。

フランスがたびたびアルメニア人虐殺に関してトルコを責めるのは、フランスには大勢のアルメニア系住民がいるからです。今回法案を可決したことにより、サルコジ政権は、来る選挙で50万票を獲得したと言われています。

トルコ人は、「歴史は歴史家に」と訴えていますが、歴史問題が政治的カードとして機能し、金のなる木であるかぎりは、何百年前のことであろうと歴史ではなく今日の問題なのです。

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2011年11月24日

Now They're Back

相変わらず世界は底の見えない不景気で、日本でもアメリカでもヨーロッパ各国でも、主要な時事問題は経済がらみです。しかしなぜかドイツでは、新聞も雑誌もテレビも、極右テロの話題でもちきりです。

男2人、女1人の「国家社会主義地下組織」を名乗るグループが、過去14年間に10人を殺害していたことが発覚したということで、「極右テロの新しい形」だと叫ばれ、メルケル首相は「ドイツの恥」としてテロ殲滅に全力をあげることを宣言しました。

でも、変だと思いませんか?なるほど事件は猟奇的です。しかし極右テロの新しい形などと言われると、首をかしげてしまいます。なにしろ犯人グループはわずか3人で、14年間に移民9人と警官1人を殺したとはいえ、殺人により何かのメッセージを発したわけではなく、犯行はいずれもコソコソと隠れて行われ、おかげで誰も極右の犯行だと気づきませんでした。犠牲者の画像を編集してビデオに残していましたが、それも4年前に作られたもので、誰に見せるわけでもなくただ保存していただけです。

確かにこれまでのテロとは一線を画す新しいテロの形ではあります。しかし別の言い方をすれば、異常者による連続殺人事件のようなテロ、要するにテロと呼ぶにふさわしい事件には見えません。

ドイツでは、トルコ移民の増大が社会不安を生んでいますが、それが暴力的排外主義と結びつく兆候は一切見られません。現代の反移民主義は非暴力主義と固く結びついていますし、国民は総じてサヨク的世界観に同情を示していますし、ネオナチなどは日本の街宣右翼の存在感に遠く及ばない絶滅危惧種です。にもかかわらず、「極右」と「暴力」のほんのわずかなニアミスにも過剰に反応するドイツを見ていると、ドイツ病は相変わらずだとため息がでます。

ぼくの見立てによるドイツ病とは、ただ闇雲に極右を叩くことではありません。ドイツは極右を嫌いますが、極右叩きには明確なパターンがあるのです。

前回の極右叩きブームは、1990年前後に起きました。東西ドイツ統一前後のことです。特に統一後の旧東独地域におけるネオナチの暴れぶりは、日本でもさかんにニュースで伝えられました。ドイツ人というのは、ストレスを加えると簡単にナチ化するのだなと驚いたものです。しかし今日では、旧東独地域の極右台頭は実際には大騒ぎするほどの問題ではなかったと言われていますし、極右的思想の支持者は、むしろ旧西独地域より少ないという調査結果も出ています。

当時のドイツは、極右が台頭したから極右を叩いたのではなく、極右を叩く衝動に駆られたから極右を叩いたのです。東西ドイツが統一し、大ドイツの復活だと欧州各国が警戒する中、「ドイツは民族主義を許さないよ。ナチスの復活なんて絶対ありえないよ」というポーズを示したわけです。

それは計算してそうしたわけではなく、おそらく国家としての本能のようなものだと思います。第二次大戦後、連合軍に生殺与奪権を握られたドイツは「ナチスキライ、ナチスキライ」と唱えることでかろうじて生存を許可されました。そのトラウマから、ドイツという国家の存在感が増すたびに、まるで防衛本能のように「ナチスキライ」を唱え、そうすることで周辺国の了解をとろうとしてきたのです。

今回もそうです。EU各国の債務危機で、周辺国はもうドイツにすがるしかない状況です。ドイツの大国化を警戒する政治家たちの中には、「かつて血を流してドイツの覇権を阻止したのに、EUはドイツを抑えるためにできたはずなのに、今や欧州はドイツの天下。どうしてこうなった?」と公の場で嘆く者も現れ始めています。そんな中ドイツは「ナチスキライ」と魔法の呪文をブツブツ唱えているのです。

でももう呪文の賞味期限はいい加減切れました。今や本気でナチズムの復活を心配している者などいやしません。周囲を不安にするのは、ナチスの復活ではなくドイツの復活なのです。ドイツがドイツとして普通に振る舞うと、ヨーロッパ大陸は必然的にドイツの手に落ちます。地政学的にも、歴史的にも、これはどうしようもありません。そしてそれは大きな軋轢を生み、やがて災難を招くことになるのです。ドイツ人の悲しい運命です。

ベルリンの壁が崩壊したとき、強硬なドイツ警戒論者であるイギリスのサッチャー首相は、ECの強化でドイツは無力化できるとする楽観論を一蹴し、「我々はドイツを二度倒した。今彼らは帰ってきた」と各国首脳の前で警鐘を鳴らしたといいます。当時は一笑に付されたサッチャーの警句ですが、今はどうでしょうか?ECを強化したEUはドイツに力を集中するシステムへと変質し、ドイツはいよいよ目覚めようとしているのです。「ナチスキライ」とつぶやきながら。

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