FIFA、ロンドン五輪の竹島プラカード選手の処分決定
サッカーに乱闘やファンの差別的行動はつきもので、FIFAの懲罰委員会は年中そうしたケースを審議して罰を下しています。しかし、あのように明白な政治的メッセージの発信は稀で、今回はそれに対するFIFAの態度を明確にする絶好のチャンスでした。しかも今ほど、毅然とした態度表明の求められている時はありません。
とうのも、2013年のサッカー界は、数十年に一度あるかないかの政治的に微妙なマッチを控えているからです。それは、ワールドカップ欧州予選グループA、セルビア対クロアチアの試合です。
1991年に勃発したユーゴスラビア内戦を経て分裂した両国の相互憎悪は病的で、韓国の日本に対するウルトラナショナリズムを10倍に濃くして腐らせたようなレベルです。両者ともに自らをホロコーストの被害者と認識し、相手をホロコーストの加害者と見て憎んでいます。
しかも両国は世界に名だたるフーリガンの国で、サッカーに絡んだ殺傷事件は日常茶飯事です。今現在も、U21のイングランド戦と、W杯予選のウェールズ戦での不祥事で、セルビアのサッカー協会は処分待ちの状態で、セルビアを対外試合禁止にすべきとの声も聞かれます。
また先日、ユーゴ内戦で戦犯容疑をかけられていたクロアチアの2人の将軍に無罪判決が下った折には、クロアチア代表の監督が、2人をセルビア戦の始球式に呼びたいと発言して物議を醸していました。
Political tensions spill over to soccer in Serbia and Croatia following UN court acquittal.
そもそも1991年の内戦も、サッカーの試合を契機にして起きたという過去を持ち、歴史的、政治的、領土的に紛争を抱える両国の初の直接対決は、サッカー関係者の手に余る悩みの種と言えます。
来年の3月にクロアチアの首都ザグレブで第一戦が行われる両国の対戦に先立ち、あるいはその試合に関して重大な不祥事が起きた場合、もしFIFA/UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)がそれを軽く扱えば、それはサッカー界の秩序崩壊を意味します。
しかし一方で厳罰を下しても、それもまた将来に禍根を残します。何しろ両国の歪んだ憎悪の根幹には、「国際社会はフェアではない」という被害者意識があるからです。実際、サッカー大国のスペイン等でたびたび見られるファンの差別的行為は見逃されるのに、セルビアやクロアチアのフーリガンばかり問題視されるという傾向はあり、アンフェアな厳罰は両国の被害者意識を増幅させ、民族対立を先鋭化させかねません。
そんな折に起きた、韓国選手の明白な政治的行為です。もし厳罰を下していれば、それはバルカン半島の危ないサッカーファン、ひいては世界のサッカーファンに強烈なメッセージを送り、FIFAはアンフェアだという批判を封じ込め、将来の類似案件の処理を楽にしたことでしょう。
しかしFIFAは、違うメッセージを送ってしまいました。
今年の6月、デンマーク代表のニクラス・ベントナーは、ゴールセレブレーションで個人スポンサー(デンマーク代表のスポンサーにはライバル企業が名を連ねていた)の名入りパンツを見せて処罰されました。
事件の後1週間を待たずに下された1試合出場停止と罰金10万ユーロ(約1千70万円)というペナルティは、韓国選手に対する3ヶ月を超える審議と31万円という罰金に比べていかに重く、迅速に下されたことか。メッセージは明確です。